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被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(79)
眞鍋医師が糖尿病、慢性肝炎の放射線起因性について詳細な立証証言!
反論に窮した国側代理人は反対尋問を放棄!
2020年3月2日(月)

 2月28日(金)、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の原告T・Iさん(男性、76歳、京都府城陽市)の控訴審(大阪高裁第6民事部・大島眞一裁判長)が開かれた。今回から裁判長が交代。前年までの中本裁判長から大島裁判長に変わった。結審間近の今になって裁判長が変わるのか、と少々驚き。
 T・Iさんの一審判決は昨年の5月23日。申請疾病の糖尿病にはよほど特別の場合以外放射線起因性はないと断定し、もう一つの申請疾病である慢性肝炎についてはT・Iさんは該当しないという不当なものだった。今回の法廷は阪南医療生協診療所所長の眞鍋穣医師が証人として採用され、争点である糖尿病と慢性肝炎について証言されることになっていた。
 主尋問は中道滋弁護士が担当。準備されてきたたくさんの証拠をすべて明らかにするため、45分間という限られた時間を意識してかやや早口で質問が繰り出されていった。それに対して真鍋医師は一つひとつ丁寧にかつ歯切れよく回答、説明がされていく。今回は法廷内でOHP(オーバーヘッドプロジェクタ)も用意されていて、証言を分かり易くするため図で示して行われたり、証拠論文の該当箇所を拡大して示すなど、工夫も凝らされていた。

 尋問はまず糖尿病の種類と特徴、T・Iさんの疾患であるⅡ型糖尿病の病態の説明から始まり、放射線と糖尿病の関係についてのメカニズム、放射線による糖尿病発症の増加要因、そして糖尿病と放射線との間にしきい値はないことまで、数々の論文を証拠として示しながら証言されていった。論文の名前やその内容を傍聴席にいて理解するのはなかなか難しいが、挙げられた論文の数だけでも10本以上はあったのではないか。その多くが医療における放射線照射治療と糖尿病発症との関係を具体的な実証データで示すものであった、ように思う。中にはチェルノブイリ原発除染労働者のⅡ型糖尿病発症頻度というものもあった。
 一審判決は、「放射線に関する糖尿病は特定のHLAハプロタイプだけ」という国の主張を丸飲みしたものだが、それは明らかな間違いであると断定された。しきい値についてもいくつもの論文を示してしきい値のないことが証言された。国は主張の根拠にしている論文をまったく読み違えているとも指摘された。
 医療行為の放射線照射は膵臓照射、頭蓋脊髄部照射等局所的に行われたりするが、それでも糖尿病リスクの高まることがこれだけ明らかになっている。被爆者は全身被爆しているのであって、当然糖尿病リスクは高まることになる。数多くの証拠論文に基づいた証言の後に、眞鍋医師は糖尿病についての意見をこうまとめられた。私たちもすごく納得するところだった。

 主尋問の後半は慢性肝炎についての証言。国の主張と一審判決は、ウィルス性肝炎でなければ慢性肝炎とはよばないというものだった。これに対して眞鍋医師は、「血液中のAST、ALTの値が6か月以上に亘って上昇している場合は慢性肝炎と診断する」とする肝臓学会の公式資料を示し、T・Iさんは6か月以上に亘って肝機能異常肝機能障害があるので疑問の余地なく慢性肝炎であると証明された。次いで、T・Iさんの慢性肝炎は脂肪肝によるものとされているが、その脂肪肝の放射線起因性についても、放射線影響研究所の報告や論文に基づいて、有意な相関関係のあることが証明されていった。T・Iさんの肝機能障害の原因は非アルコール性脂肪肝が考えられるが、それは放射線被ばくによるものだと言う結論だった。

 45分間の主尋問を終えて、反対尋問に移る前に国側代理人から「尋問について少し相談をしたいので休憩をとりたい」と申し出があった。裁判長がそれを受け入れ、10分間の休憩をはさんでの反対尋問となった。反対尋問は、証人の専門は何か?放射線と肝機能障害の関係について学会で発表したことはあるのか?原告の診察はしたのか?これまで原爆症認定訴訟の証人になったことはあるのか?と型通りのいつもの質問から入っていった。それからさらに質問は続くものと思っていたが、驚くことに国側代理人は「これで反対尋問を終わります」と、尋問を終えてしまった。反対尋問にも45分の時間が用意されていたのに、わずか10分にも満たない時間。
 原告側代理人席も、満席の傍聴席も、おそらく裁判官たちも、呆気にとられて、すぐには事態が分からないほどだった。あの10分間の休憩は何だったのか?完璧で詳細な眞鍋医師の主尋問の前に、用意されていた反対尋問の項目はことごとく先に反論されてしまった、もはや法廷で問い質せることがない、今日のところは早々に幕引きを、そのことを確認しあうための10分間だったのかもしれない、そんなことを想像したくなるような雰囲気だった。
 これで証人尋問は終わることになったが、ただ、裁判官からも一切質問がなされなかった。今日の証言で一審判決の誤りはきれいに明らかにされた。それも具体的でとても分かり易い内容によって。変わったばかりの裁判長で、理解をより正確にするためには聞くべきことがたくさんあるのではないかと思うが、そういう態度は示されなかった。どこまで理解されているのか、本気で理解しようとしているのか、気になることとして残った。
 今後さらに意見を最終準備書面の中でしっかり示していくと双方が述べ、次回の法廷4月22日(水)が確認されて閉廷となった。次回が結審となる予定だ。

 大阪弁護士会館に移動して報告集会がもたれた。最初に今日の証言者である眞鍋医師から感想、思いが以下のように述べられた。こちらの提出した証拠に対して国側の反論が出されているが、論文全体をしっかりと読んではいないことが分かった。今日の証言は分かり易く説明するように努めたつもりだが、傍聴席で聞いていて分かっていただけたかどうか、一番の心配ごとだった。反対尋問に対して何を聞かれてもいいように昨夜も夜遅くまで提出書類に目を通して準備し身構えていたのに、あんなことになって残念だった。国側は反論できないと思ったのだろう、事実上の反対尋問放棄ではないか。あとは裁判所が私たちの主張を素直に受け止めてくれたらと思う。原爆症認定訴訟は毎回出るたびに勉強させてもらっている。医者として診療に活かせることも多い。原爆症認定訴訟に少しでも役立てれば嬉しいし、やりがいのある仕事だ。

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 原告のT・Iさんは自分の裁判以外の時も含めてノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟のすべてに皆勤出席されてきた。今日も当然出廷されていて、眞鍋先生へのお礼と、必ず司法の場で受け入れられることを心から願っている、という思いが述べられた。
 今日の尋問担当だった中道弁護士からは次のような感想が述べられた。今日の尋問は、原爆症認定訴訟全体の中でも最後の尋問になるかもしれない、そんな思いがあって、私もそれなりに力を注いで準備してきた。眞鍋先生の勉強熱心さ、探求心、あくなき真理の追究姿勢は本当にすごいと思った。寝る間も惜しんでいろいろなことを徹底して調べていただいた。頭が下がるばかりだ。今日はつたない尋問だったかもしれないができることはやりきったと思っている。

 愛須勝也弁護団事務局長から今日の法廷の感想とこれからの展望について発言があった。眞鍋先生と中道弁護士とは何度も何度も打ち合わせを重ねられ、T・Iさんの診察も1時間以上かけて行われるなどして今日の尋問は準備されてきた。眞鍋先生は医師としての仕事があり、また大学の学長も務められているなど大変多忙であるにも関わらず、強い使命感をもって今日の証言をしていただいた。
 今日の尋問は歴史的と言っていい、非常に画期的な証言だった。肝機能障害と糖尿病についてここまで詳細に解明されたことは全国でもこれまでなかった。癌治療で放射線を浴びせた場合どのような影響があるかを中心に、論文の一つひとつを分析され、それらに基づいた証言だった。その結果、全身に放射線を浴びている被爆者は糖尿病も放射線起因性が認められなければならないことが証明された。さらに脂肪肝と放射線との関係まで解明された。国側も集められないような資料をこちらが集めて詳細な医学的知見が提示された。問題は裁判所が全部分かったかどうかだが。
 今日の尋問を踏まえてこれから最終準備書面をまとめていけば展望は開けるのではないか。まだまだ闘いは続くが、今日の尋問、証言はそのための非常に大きな力になってくる。全国にも広げていきたい。

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 藤原精吾弁護団長からも2月25日最高裁判決のことも含めて発言があった。今日の証人尋問、よくここまで準備されたと思う、お礼と敬意を表したい。反対尋問ができなかったのは、主尋問の正当性に圧倒されたことの証明だ。最終準備書面は勝訴以外の判決は書けないようなものに、弁護団としても臨んでいきたい。地裁第2民事部では不当な判決が続いている。どこかで巻き返しを図る必要があるが、この控訴審判決で大きなチャンスを掴みたい。

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 2月25日(水)既報のように最高裁判決があった。最悪の判決だった。司法判断の基本は本来、被爆者にどう寄り添うか、被爆と言う事実をどう受け止めるかが一番の出発点でなければならない。放射線起因性まで認められている被爆者の病気について、もう医療はいらない、治療はいらないというのはあまりにもおかしい。これ以上悪くならないよう注意して見守る、定期的に検査をする、そういった経過観察は当然医療に含まれる。それをどこまでやるかは主治医の判断だ。
 それをよく分からない裁判官が、というより厚労省が一方的にここまでと打ち切り範囲を決めて入り口を塞ぐ、一旦は認定された人に対してもこれ以上は治療の必要がないと打ち切ってしまう。これはまったくの政治的判断、行政の都合であって、被爆者に寄り添う立場ではない。すべての裁判に通じることだが、人間の人権、健康が損なわれた時、それをどう回復するかが裁判所には問われている。今度の判決は、国の制度はこうだとまず決めて、要医療性の範囲も厚労省が決めて、行政の決めたことを裁判所が追認するだけのものだった。こういう裁判は本当の意味での裁判ではない。
 裁判の当事者である原告の内藤淑子さん(広島の被爆者)は、判決を聞いて「私は心が折れました」と語られた。「お金の問題ではない。74年前の思いもよらないことから私は被爆者と言う運命を担わされてきた。そのことを国は認めるべきだ」という思いであった。それを認めない。要医療性という一片の通知で撥ねてしまうのは、被爆者の歩んできた、受けてきた傷と思いをまったく無視した判決と言わざるを得ない。
 政府や厚労省がどのような政策、政治を行おうとも、裁判所の判断はそれとは独立したもので、行政に対する批判もしてきた。松谷訴訟の時も被爆者に勝訴の判決が下された。裁判所は被爆者に寄り添った人権の砦としての立場をとるべきで、その姿勢を貫いて欲しいと思ったが、まったく期待に応えるものではなかった。裁判所もあてにできないという思いもあるが、こんな裁判所でも認めざるを得ないところまで追い込んで行くことが今後は必要となる。
 最高裁が要医療性を狭く解釈したことによりこれは今後の原爆症認定に影響してくるだろう。認定申請を却下処分する、認定更新を打ち切る例も増えてくる可能性がある。私たちはその誤りを一つひとつ正していく活動がこれからさらに必要だ。運動でも、裁判でも。もう終わってしまったことではない。来月には大阪で原爆症認定を打ち切られた人の裁判も始まる。
一番の基本は、被爆者に対して、被爆者だけでなく空襲や戦争被害者すべてに対して国がきちんと責任をとっていないところに問題がある。私たちにはまだまだとりくむべきことがたくさん残されている。

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 最後に尾藤廣喜弁護団幹事長から以下のようなまとめが行われた。新型コロナウィルス感染に対して政府は何も対策しない、すべて国民の自己責任にして、それは被爆者の問題とも共通している。被爆者問題は国の政治のあり方が問われる問題だった。あれだけの被害を受けた被爆者に対して国としてどう対応するのか、国政の根幹に関わる身問題としてずっと争ってきた。8・6合意で今後争う必要のないようにと約束したのに、肝臓の病気は救済すると約束してきたのに、それを守らない政治、行政が続けられてきた。
 最高裁は国の主張を認めてしまった。しかし、私たちはそれにひるむことなく前に進んで行こう。何より被爆の実態を訴える中で、被爆者の救済を求めていこう。

 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟は、地裁で残る原告は1人となった。N・Kさんで4月10日(金)に判決を迎える。現在控訴されている原告は5人で、その内の苑田朔爾さんは4月17日(金)が判決、この日証人尋問の行われたT・Iさんは4月22日(水)が結審の予定。後の3人、高橋一有さん、Y・Mさん、O・Hさんはまだ係属部も未定だ。
 舞台の多くが高裁に移る中、5月30日(土)にノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の全面勝利をめざすつどいが催される。本当に大詰めとなってきた近畿訴訟を、最後まで勝ち抜く、被爆者の救済を勝ち取るために、“つどい”を成功させていきたい。あらためて高裁での公正な判決を求める署名活動をとりくんでいくことも合わせて確認し、この日の報告集会を終了した。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
 2020年 4月10日(金)14:00 地裁第2民事部 1007号法廷 N・Kさん判決
 2020年 4月17日(金)14:00 控訴審・高裁第2民事部 82号 苑田さん判決
 2020年 4月22日(水)13:30 控訴審・高裁第6民事部 81号 弁論(結審予定)
 2020年 5月30日(土)14:00 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟全面勝利めざすつどい
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