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被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(73)
大阪地裁第7民事部判決 慢性腎不全の放射線起因性を認定!
判決を力に審査基準の見直し、認定制度改定の実現をめざしていこう!
2019年5月26日(日)


 2019年5月23日(木)、大阪地裁第7民事部(松永栄治裁判長)においてノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の二人の原告への判決言い渡しが行われた。原告はW・Hさん(男性・75歳・京都府木津川市)とT・Iさん(男性・75歳・京都府城陽市)。W・Hさんの申請疾患は慢性腎不全(IgA腎症)、T・Iさんの申請疾病は糖尿病と慢性肝炎で、慢性腎不全も糖尿病もいずれも厚労省の定める積極的認定疾病の範囲になっておらず、それだけ難しい裁判として闘われてきた。
 正午過ぎ、いつものように裁判所前の西天満若松浜公園に集合して判決前集会を行った後、原告、弁護団、支援の人々全員の行進で裁判所に入り、806号法廷に向かった。

入廷行動_convert_20190523192204

 原告のT・Iさんは提訴以来6年間、自分の裁判だけでなく、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟のほぼすべての期日に毎回参加して、他の原告のみなさんも励まし続けてきた人だ。今日も法廷内の原告席に座って開廷を待った。W・厳しい体調をおして裁判を続けてきた人で、判決のこの日も出廷は叶わず、自宅で結果を待つことになった。
 午後1時10分開廷。ただちに松永裁判長から判決の主文が読み上げられた。まずW・Hさんについて、「厚労省の却下処分を取り消す」の言葉がはっきりと聞き取れた。瞬間「よしっ!」と手に力が入る。しかし、T・Iさんについては「却下処分を取り消す」とも「請求を棄却する」ともはっきりとしたことは聞き取れず、傍聴席からは結果がよく分からないまま裁判官は退席してしまった。どうもT・Iさんは駄目だったようだ。そんな様子を弁護団席の雰囲気から感じつつ退廷することになった。裁判所前の旗出しは「勝訴」。二人とも勝訴なら「完全勝訴」となるはずだった。一人は勝つことができたが、もう一人は駄目だった。複雑な思いを持ちつつ、報告集会の行われる北浜ビジネス会館に足を運んだ。

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 報告集会は、弁護団による判決内容の分析作業を待って、午後2時から始められた。弁護団による判決内容の説明は愛須勝也弁護団事務局長によって、要旨以下のような内容で行われた。

 ノーモア・ヒバクシャ訴訟も、裁判の進行に連れてより難しい事件が残されてくる。今回の判決もこれまでの中で一番難しい事件だったのではないか。実際に提訴以来5年以上の年月を要してやっと今日の判決を迎えることができた。
 W・Hさんの慢性腎不全もT・Iさんの糖尿病も厚労省の定める積極的認定疾病の対象外だ。T・Iさんのもう一つの申請疾病である慢性肝炎の方は対象疾病だが、国はT・Iさんがその病気に罹患しているのかどうかを争ってきた。したがって、原告が訴えてきた病気そのものについて、裁判所が放射線起因性をどのように判断するのか、真正面から問われた裁判だった。全国の原爆症認定訴訟の歴史の中でも慢性腎不全も糖尿病も勝訴判決を得た例はそれぞれ2例ずつしかない。そういう意味でも大変厳しい事件だったと思う。
 そうした中で今回裁判所がW・Hさんの慢性腎不全について放射線起因性を認めたことは非常に高く評価される。
近畿における原爆症認定訴訟は大阪地裁第2民事部と第7民事部に係属され、これまで主に第7民事部で判決が続いてきた。その第7民事部では原爆症に関する判断がある程度蓄積されているので、今回の判決もかなり緻密に書かれたものだった。
W・Hさんの慢性腎不全について、国はまずIgA腎症ではなく糖尿病症腎症ではないかと争ってきた。これに対して判決は、いろいろなデータ、カルテ、医学的知見を総合的に検討した上でIgA腎症であると断定した。とても詳細な医学的分析が行われていて国側の主張は全面的に排斥され、私たちの主張が認められた。
 その上で慢性腎不全(IgA腎症)の放射線起因性についての判断が下された。放射線の被ばく線量と慢性腎不全や腎機能障害との関係を調査研究された二つの論文が積極的な論拠として採用され、判決は“慢性腎不全と原爆放射線との間には低線量被ばくの場合も含め、一般的な関連性があると認めるのが相当である”と結論付けた。
 国側は判決の論拠にされた二つの論文についていろいろと難癖をつけ、慢性腎不全と放射線との関係についても否定する主張を繰り返していた。判決はそれら国の主張一つひとつを敢えて俎上に載せ、その上ですべてを丁寧に且つ徹底して論破し、最後はバッサリと切り捨てている。
 非常に大きな意味を持つ判決だ。原爆症の積極的認定疾病の対象とされてこなかった慢性腎不全についても放射線起因性を認めなければならないとしたのだから、個別の一事例判決などといって片付けられるものではない。全国の裁判にも生かされていくものだし、何より審査基準そのものを見直していく、変えていく大きな論拠、力となっていく。
 一方T・Iさんの糖尿病については以下のように判決された。糖尿病と原爆放射線被ばくとの関連性は一般的には消極に解されるが、特定の遺伝子を有している場合のみ肯定する余地がある。しかし原告のT・Iさんはその特定遺伝子を有しないので放射線起因性は認められない。またT・Iさんの肝機能障害についてはその原因は軽度の脂肪肝であるとして、こちらも放射線起因性が否定された。T・Iさんにとっても私たち全体にとっても到底認められる判決ではなく、控訴して闘い続けていくことになる。
 報告を聞く限りにおいて、W・Hさんの慢性腎不全の放射線起因性を認める論拠の緻密さと比較して、T・Iさんの申請疾病の起因性を否定する展開はあまりにもバランスを欠く内容なのではないかと思わざるを得なかった。

 報告集会では敗訴となったT・Iさんから無念の思いを抱きながらもこれからについての決意と挨拶が述べられた。「申請から10年、提訴から6年かかった。応援いただいた弁護団のみなさん、支援のみなさんにまずお礼を申し上げたい。私の病気は原爆によるものだと固く信じている。ただそれを証明するのは非常に難しいことだと感じた。判決には納得できない、理解できないところが多々ある。弁護士の先生とも相談しながら控訴について考えていきたい。これからもより一層のご支援をお願いします。」
緊急に作成された原告団・弁護団・支援ネットワーク連名の声明が提案され、全員で確認した。W・Hさんにはお祝いの、T・Iさんには労いとこれからの激励を込めた花束が贈呈され、合わせて参加者全員からの拍手が贈られた。

花束贈呈_convert_20190523192413

 報告集会は最後に愛須弁護士によって以下のようにまとめられた。
 2009年の8・6合意から10年目の節目を迎える今、認定制度をなんとか変えていくための力となる判決を期待し、医学的にも一番難しい事件に臨んだ今日だった。W・Hさんへの判決は現行の認定審査基準の誤りをハッキリと指摘するものだった。判決を突きつけられた厚労省は基準の見直しを考えなければならない。そのために、W・Hさんの判決をまず確定し、認定基準をどのように見直していくのか、そちらに議論の方向を向けていかなければならない。
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟を提訴できる被爆者、原告も少なくなってきた。このままでは「被爆者もいずれは諦めるだろう」という厚労省の狙い通りになってしまう。8・6合意から10周年を迎えるこの機会に、もう一度合意の本旨を思い出させていく必要がある。今日の判決はそのための重要な力となり、機会となる。
 全国の訴訟は少なくなっているが近畿はまだ9人の原告が闘い続けている。今年、来年に向けて判決が続いていくこともあってこれから近畿の闘いが焦点になってくる。みなさんの力を結集し、最後の全面解決に向けて一気に力を尽くしていこう。高齢化によって多くの被爆者が救済も受けられずに涙を飲んでいる。裁判を闘える人は救われるが、裁判できない人は泣き寝入りしなければならないのが現状だ。そういう人たちを救うために、原爆症認定制度を変えていくために、使命感をもって闘いっていきたい。原爆症認定訴訟は近畿から始まったが、最後も近畿において頑張っていこう。
 この日の大阪裁判所は他の重要な裁判もいくつか重なっていて、閉廷後の記者会見も時間の調整をはかりながら行われている様子だった。いつもは会見を終えた弁護団が報告集会に駆け付けて、一緒に今後の闘いに向けて決意を固め合うところだが、今回は会見が始められる頃の時間には報告集会を終えざるをえなくなってしまった。そのためやや手薄になった弁護団の報告集会参加だったが、それでもこれから引き続いて頑張っていこうと、参加者全員であらためて誓い合って散会した。

久米弁護士_convert_20190523192318

 第7民事部判決の1週間前、5月15日(水)には第2民事部(三輪方大裁判長)において3人の原告の最終意見陳述が行われた。3人の原告は高橋一有さん(77歳、兵庫県三木市)、A・Tさん(75歳、大阪府河内長野市)、M・Yさん(故人、滋賀県米原市)。高橋さんは原爆症認定そのものの判決をこれから迎えることになるが、A・TさんとM・Yさんはすでに自庁取り消しによって原爆症認定は受けており、国家賠償請求を求めての陳述だ。
 この日はまず高橋さんが法廷に立って最後の意見陳述を行った。原爆投下時の状況、母親に連れられて長崎の街を歩き回った体験、幼い頃から襲われ続けてきた幾多の病気のことなどを簡潔にまとめて語られた。高橋さんは最初の意見陳述や本人尋問の時にも述べていたことだが、原告になるには大変な悩みと葛藤があった。それを乗り越えて提訴するに至ったのは、自分たちが名乗り出て話さなかったら原爆のことはなかったことにされてしまう、という強い思いからだった。裁判すると決めてから初めて被爆者であることを娘さんたちに打ち明けられた。そのことももう一度最終意見陳述でも述べ、裁判官には被爆者の苦しみをきちんと受け止めて欲しいと訴えられた。
 高橋さんの陳述の後、愛須勝也弁護団事務局長から総括的な最終意見陳述が述べられた。愛須弁護士の陳述は、2009年の8・6合意の重要な意味とそれを踏みにじってきた国の態度、二度に渡って改訂されてきた国の「新しい審査の方針」が積み上げられてきた司法判断とは真っ向から対立するものであること等を厳しく指摘するものだった。そして、原爆症認定申請の却下処分を受けた多くの被爆者は、経済的な問題だけでなく肉体的にも精神的にも耐えがたい苦痛を被ってきたのであり、却下処分の取り消しだけで原告らの被害が補填されるものではないことが強調された。司法判断を無視し、いつまでも従来通りの主張に固執する国の姿勢は法治主義国家の根本を否定するものだと断罪し、国に抜本的な対策を促すためにも、国家賠償責任を命じることを強く期待するとして陳述は締め括られた。
 陳述を終えて、裁判長が弁論の終結を宣言し、判決を11月22日(金)午後1時10分から言い渡すと告げられた。半年以上先、やや先になってしまった感はぬぐえないが、裁判長が口にした「判決は一生懸命考えたい」の一言が印象に残った。

ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2019年 6月15日(土)14:00 大商連会館 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟全面勝利めざすつどい
2019年 7月24日(水)14:00 1007号 地裁第2民事部 Y・M、O・H、Y・Iさん最終意見陳述
2019年 7月25日(木)10:30 高裁82号 高裁第2民事部 苑田朔爾さん控訴審弁論
2019年10月11日(水) 11:00 1007号 地裁第2民事部 N・Kさん最終意見陳述
2019年11月22日(水) 13:10 1007号 地裁第2民事部 高橋、A・T、Ⅿ・Yさん判決
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2019.05.29 Wed l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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