FC2ブログ
意見陳述
原告ら訴訟代理人 弁護士 愛須勝也
第1 裁判所に求めるもの
 被爆者援護法が制定されておよそ四半世紀、被爆者の高齢化はさらに進行し、平均年齢は80歳を超え、法廷にすら立てない原告も増えています。また、加齢により記憶も減退、混乱し、証人等の証拠も散逸し、立証上も制約が拡大しています。少なくない原告が死亡し、遺族が訴訟を承継している現状です。

 被爆者の高齢化を背景に、2009(平成21)年8月6日、当時の麻生太郎内閣総理大臣兼自由民主党総裁と日本被爆者団体協議会(日本被団協)との間で、「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」(いわゆる「8・6合意」)が取り交わされました。
 その中で、合意当時、原告ではない被爆者の認定問題については、「訴訟の場で争う必要のないよう」厚生労働大臣と被団協・原告団・弁護団との定期協議の場を通じて解決を図ることがうたわれました。
 しかしながら、8・6合意にもかかわらず、原爆症認定をめぐる実態は、入市被爆者の認定申請を一切認めず、積極的認定対象被爆とされる近距離被爆者の認定申請もごく一部しか認めないなど、悲惨な実態が続いていました。
 厚生労働大臣は2009(平成21)年6月22日に「新しい審査の方針」の改定を行い、2013(平成25)年12月16日にも再改定を行っていますが、それは蓄積された司法判断を無視する内容であり、現在においても実態は何ら変わっていません。
 さらに、国は、「8・6合意」の趣旨を踏みにじり、多くの事案で1審で敗訴しても控訴して争っています。
 その結果、命をかけて訴訟に立ち上がり、1審勝訴を勝ち取っての喜びもつかの間、控訴により、認定証を受け取ることなく死亡する原告もいます。
 裁判所におかれては、今一度、この被爆者援護法の趣旨に立ち返り、松谷訴訟最高裁判決以降築かれた司法判断の到達点を踏み外すこと無く、一刻も早く、唯一の被爆国の裁判所として被爆者救済の判決を下されることを切望するものです。

第2 本件訴訟の重大な意義
 1 「新しい審査の方針」の策定とその問題点
 先ほど述べたとおり、原爆症認定集団訴訟における相次ぐ国敗訴の判決を受けて策定された「新しい審査の方針」は、それまでの司法の到達点とは離れ、依然として問題を残すものでした。

 2 8・6合意後の実際の運用
 国は、8・6合意の締結時に、「19度にわたって、国の原爆症認定行政について厳しい司法判断が示されたことについて、国としてこれを厳粛に受け止め、この間、裁判が長期化し、被爆者の高齢化、病気の深刻化などによる被爆者の方々の筆舌に尽くしがたい苦しみや、集団訴訟に込められた原告の皆さんの心情に思いを致し、これを陳謝」し、一人でも多くの被爆者が迅速に認定されるよう努力する旨の内閣官房長官談話を発表しており、国に求められていたのは、「新しい審査の方針」の根本的再々改定と、司法と行政の乖離の解消でしたが、実態は、まさにその反対の惨憺たる状況となっていたのです。
それは、「新しい審査の方針」が再改定されても変わるどころか、司法判断に敢えて挑戦するかのような代物でした。
 新しい審査の方針の策定前も策定後も、司法判断は一貫しています。
 即ち、DS02等により算定される被曝線量は、あくまでも一応の目安にすぎず、被曝線量評価は被爆状況、被爆後の行動、活動内容、被爆後に生じた症状等に照らし、様々な形態での外部・内部被曝の可能性がないか否か十分に検討するべきというものであり、被爆地点の爆心地からの距離や、入市の時期や時間を形式的に当てはめて被爆線量評価をし、放射線起因性を機械的に判断することについて司法は断罪し続けてきたのです。
 ところが再改定後の新しい審査の方針は、原則認定・積極認定する疾病を限定的に列挙し、その要件も、被爆距離、入市時期、時間で機械的に選別するという再改定前の新しい審査の方針の根本的誤りをそのまま踏襲するものであるだけでなく、非がん疾患で積極認定とされていた疾病(心筋梗塞等)については、逆に積極認定の範囲を狭め、ますます司法判断から離れようとするものでした。被告の認定行政の違法性は、新しい審査の方針の再改定後、更に強まったといえます。

 3 以上のとおり、これまで厚生労働省の切捨政策に対する厳しい判決を連続して下されたにもかかわらず、厚生労働省は、その方針を変えようとしませんでした。
 このため、ここ大阪地裁だけでなく、東京、名古屋、岡山、広島、熊本、長崎などでも新しい「原爆症認定訴訟(ノーモア・ヒバクシャ訴訟)」が提起されたのです。本件事件もその一つです。
 このような状況において、貴裁判所には、集団訴訟の到達点、司法判断の到達点に挑戦し、公然と大量の被爆者切捨政策をごり押しする行政の姿勢を根本的に変えるために、被爆の実態を踏まえた「原爆症認定集団訴訟」の到達点に基づく判断をなし、違法な却下処分を早期に取り消すことはもちろん、ぜひとも、これについての国家賠償を命じられるよう、強く要望する次第です。

 4 本件事件において、認定申請の却下処分の取消しを求める原告Tさんは、心筋梗塞を申請疾病とする原告ですが、心筋梗塞や機序を同じくする慢性心不全(狭心症)を申請疾病とする東京地裁事件の原告である山本さんについて、2016(平成28)年6月29日東京地裁判決は放射線起因性を認定しました。国側は控訴しましたが、平成30年12月14日、控訴は棄却されて高裁判決が確定しています。
 原告の山本さんは、長崎原爆の爆心地から4.2kmの地点で直爆、8月13日に爆心地から500mまで入市した原告です。
また、2016(平成28)年10月27日、大阪地裁第7民事部で却下処分を取消す勝訴判決を受けた原告も、長崎の爆心地から3.1kmで被爆し、8月12日に爆心地から1.2kmまで入市した陳旧性心筋梗塞を申請疾病とする原告ですが、国が控訴することなく確定しています。

 5 これまでの原爆症認定裁判例においても、初期放射線、誘導放射線、放射性降下物の全てについて、被告の依拠する基準が過小評価になっていると厳しく指摘されています。そして、誘導放射線および放射性降下物については、外部被曝のみならず内部被曝による放射線被曝があることを正面から認め、被曝線量評価に当たっては、被曝後の行動や活動内容、被爆後に生じた症状等も考慮し、あらゆる外部被曝及び内部被曝の可能性を検討すべきであるとしています。これは、被曝の実態とも合致するものです。
 また、心筋梗塞は,冠動脈の閉塞または高度の狭窄により血行障害をきたし,心筋虚血が一定時間持続した結果,心筋細胞が壊死に陥った状態をいい、冠動脈の動脈硬化を主原因とする疾患ですが、「放影研」による大規模かつ長期間の追跡調査によって,放射線量と循環器疾患全体の死亡率,さらには脳卒中や心疾患の死亡率,代表的な動脈硬化性の循環器疾患である心筋梗塞の発症率との有意な関係が疫学的に明らかになってきています。さらに,原爆放射線の被曝によって動脈硬化性の心・血管疾患である心筋梗塞の発症が促進される機序も科学的に解明されつつあります。

第3 ぜひとも国家賠償を命じる判決を
 1 被爆者は、原爆投下によって蒙った物質・人的な被害に加え、被爆後長期にわたり、多かれ少なかれさまざまな健康被害に悩まされ続けてきました。原告らも、一生涯を通して多種多様な病気に苦しめられてきました。
 被爆者が、病気に苦しみ、精神的にも打撃を受けながら、専門の医師の診断及び意見書を添えて原爆症の認定を申請すれば、厚生労働大臣は必ずや援護法の前文に書かれていることを誠実に実行してくれると信じて、国が自分の病気を原爆症と認め、医療特別手当を支給してくれるものと期待するのは当然です。
 被爆者にとって自分の病気が国によって原爆症と認められることは、医療特別手当の支給という金銭的なものを超えた、いわば被爆者としての証であり、病気と闘うための最後の救いであることも、合わせて理解する必要があります。
 そうした被爆者の確信と期待が踏みにじられ、厚生労働大臣からの1片の書面によって却下通知を受けたときの被爆者の落胆と怒り、それによる精神的・肉体的なダメージは、病気を宣告されたときと同じか、それ以上であるというのが実態です。
 却下処分を受けた多くの被爆者が、それは被爆者として苦しい中生きてきた自分の一生をまるで否定されたように感じであったと、そのときの思いを語っています。このことからも、厚生労働大臣の却下処分がいかに被爆者に強烈な精神的苦痛を与えたかを理解することができると思います。

 精神的な怒りや経済的な不安が、肉体にも影響を及ぼすことは言うまでもありません。そのために病気を悪化させ、寿命を縮めるものもあり、その損害は、医療特別手当を過去に遡って支給されれば回復されるというものではありません。
 ましてや、原告らはそうした精神的・経済的・肉体的な障害を乗り越えて、厚生労働大臣の却下処分が間違っていたとして、その取り消しを求めて、長い時間をかけて裁判を闘ってきたのです。却下処分の取消のみでは原告らの被害が補填されるものでは決してないことを十分理解して下さい。

 2 この間、2000年(平成12年)7月18日松谷最高裁判決を始め、多くの裁判所で厚生労働大臣の却下処分の誤りが繰り返し指摘されている状況のもと、厚生労働大臣がそれら司法判断を無視し、なんら反省することなく、従前からの主張に固執し、無駄な訴訟活動をすること自体、法治主義国家の根本を否定するものであり、厚生労働大臣の故意といっても過言ではない注意義務違反により、被爆者にどれだけの悲しみや理不尽な思いを抱かせたか、その精神的苦痛は計り知れないものがあります。
 想像を絶する体験をした被爆者の苦悩を少しでも救済し、また、最高裁判決が明示した原爆症認定の運用のあり方を無視する被告に抜本的な対策を促すためにも、正義に従い、国家賠償責任を命じることを期待します。
以上

 

スポンサーサイト



2019.05.23 Thu l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://fujiwaradannchou.blog50.fc2.com/tb.php/447-8f99da24
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)