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被爆二世の
ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(62)
「原告の被曝は決して低線量ではありません!」
第七民事部証人尋問で郷地医師が内部被曝の危険性、重大性を詳しく証言
2018年5月13日(日)


 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟は年明けの1月23日(火)、宮本義光さんが勝訴判決(大阪地裁第7民事部山田明裁判長)を受けて以降、3月29日(木)第7民事部の弁論、4月16日(月)第2民事部の弁論を経て、5月10日(木)、第7民事部の次の原告の本人尋問・医師証人尋問の日を迎えた。3月29日は今後の証人調べの日程調整だけだったし、4月16日も裁判長交代に伴う弁論の更新手続き中心だったので、中身に踏み込んでの実質的な審理はほぼ3ヶ月半ぶり、久しぶりの法廷となった。
第7民事部の原告は4人、その内の一人、苑田朔爾さん(76歳、神戸市在住、前立腺がんを認定申請)の尋問がこの日の法廷だった。苑田さんは2016年7月、法廷に立って意見陳述し、自らの被爆体験とその後の闘病の人生を訴えている。あれから2年、やっと証人尋問の日を迎えるまでに至ったわけだが、一刻を争う被爆者の身体のことを思うと、ここまでの時間を課してしまう認定行政の実態にあらためて憤りを感じざるを得ない。

 今回の法廷は806号法廷。35席の傍聴席は満席となり、それでも席が足りない。急遽臨時の席が追加されて、午後2時開廷となった。入廷する裁判長を見て、裁判長が交代していることを初めて知る。1月23日に画期的な判決を下した山田明裁判長に変わって、新しい裁判長が何事もなかったかのように着席。閉廷後入口の掲示を見ると裁判長の名前は松永栄治とあった。

 この日は前半が苑田朔爾さんの本人尋問。担当の中道滋弁護士によって主尋問が進められていった。被爆者健康手帳の交付申請はすべて母親の手で行われたこと、原爆が投下された時は3歳でかすかに残っている記憶は柱時計が床に落ちていたこと、後に母親から聞かされた原爆投下時の具体的な出来事の一つひとつ、1週間後に田舎に避難していく途中爆心地近くの大きな川(浦上川)で水遊びをした思い出、避難先の祖父の家で激しい下痢に襲われた体験等々、国の主張との間で争点となっていると思われるようなポイントに重点をおいて質問がされていった。主尋問の中では苑田さんの戦後の深刻な健康障害、襲われ続けてきた病魔が明らかにされた。被爆前はとても元気な腕白坊主だった苑田さんが被爆後は母親から「心配ばかりかける子や」と言われるほど病弱な子に一転。中学2年の時急性腎臓炎にかかり1年間休学。50歳の時に頸椎症の手術、70歳の時前立腺がんが見つかりステージ3の診断、翌年全摘手術。その後も脳梗塞を発症、脳腫瘍もあると言われ、甲状腺機能低下症の診断も受けている。前立腺がんの手術後は日常生活にも困難を来すようになり、深刻で辛い日々が続いている。

 反対尋問も多くは訴状に書かれていることや苑田さんが意見陳述で述べてきたことをあらためて確認するような内容で行われた。苑田さんは記憶にないことは記憶にない、分からないことは分からない、とはっきりとした受け答えで終始対応した。反対尋問の中で、国側代理人から終戦当時は食糧事情も悪く生活環境(衛生状態)も良くなかった、それが下痢の原因ではないのかと言わんばかりの質問があった。原爆症認定訴訟で言い古されてきた「食糧事情と衛生環境による」下痢発症説だ。いまだにそんなことを主張しているのか、と少々呆れながら聞いていた。

 主尋問、反対尋問の後、裁判官からの追加質問は一切なかった。代理人の尋問ですべてすっきりと理解できたということなのか、原告の証言にあまり関心が持たれていないのか。この裁判長は72年もの歳月を苦しい病魔との闘いで過ごしてきた被爆者に寄り添おうと言う姿勢があるのかないのか、気にかかるところだった。苑田さんは裁判長からは何度も「着席して尋問に答えてもいいですよ」と促されたが、結局最後までしっかりと起立したままで答え切った。最後に苑田さんは「私は被爆者であるためにこのような病気にかかり、苦しんできました。裁判長には被爆者の気持ちを理解していただき、そして正しい判決をしていただきますよう求めます」と訴えて尋問を締め括られた。

 尋問の後半は医師証人尋問で、東神戸診療所の郷地秀夫所長が証言台に立ち、担当の濱本由弁護士によって主尋問は進められた。これまでにも郷地先生の証言は何度も聞いているが、従来と比べても今回はさらに特徴的な証言であったように思う。証言はまず残留放射線被曝の危険性、内部被曝の重大性の説明から始められた。残留放射線には三つの種類があり、外部被曝と内部被曝とがあること、その外部被曝と内部被曝は被曝の形態が異なること、外部被曝は体全体を均一に被曝することを全体に放射線量を計算しているが内部被曝は均一な被曝はしないので均一なものとして計算すること自体が根本的に誤っていること、鎌田論文による内部被曝の実態証明、原爆や原発など体内に取り込まれたウラニウムが不溶性粒子となって長期間細胞を被曝し続けること等々。内部被曝放射線の危険性についてあらためて教授されているような証言が続けられた。さらに苑田さんの被爆の実態に即して苑田さんが浴びた被曝線量が相当なものであることが明らかにされていく。爆心地から4㌔離れた距離は放射性粒子が最も多く降り注いだ地域で最も危険な一帯だった可能性がある、黒い雨が降ることによって被曝線量は桁違いに増える、8月15日頃でも長崎爆心地付近の放射線量は尚相当高かったことが証明できる、特に身長の低い子どもの場合被曝線量は一層高まる、国は苑田さんの被曝線量を0.3㍉グレイと主張しているがその根拠はいい加減なものだ、外部被曝と同じ均一な被曝として見ていることがそもそも誤っており、不溶性の放射性粒子による内部被曝の被曝線量はそれよりさらに数桁増える等々。その後も証言は急性症状の評価、申請疾病と放射線の起因性、要医療性へと続いていく。
 特に、「苑田さんの被曝は、決して低線量ではありません」の一言が強く印象に残った。思えば私たちも「低線量(100㍉シーベルト以下)被曝であっても人体に与える影響は大きい、しきい値はない」と考えたり、言ったりすることがよくあった。それ自体も外部被曝の均一な被曝を前提とした考え方に囚われていたのかもしれない。内部被曝の人体に与えるダメージの深刻さを考えると、文字通り「低線量ではない」と言い切ることこそが最も適切で、実態を正しく表しているのだと思った。

 反対尋問は、郷地先生の主尋問答弁に一つひとつに対峙する、疑問を呈するような形で行われた。例えば、放射性降下物は高台により多く影響するというがその根拠は、大人より子どもの方が放射性物質を吸収しやすいという科学的知見は、放射性物質が体内臓器に吸着する経緯は、下痢の原因が放射線被曝であるとする根拠は等々。全体として、郷地先生が否定し批判するところの「均一な被曝を前提とした線量基準」にあくまで基づいた尋問でしかない。他原因との関係についての質問に対しては、「苑田さんの場合、前立腺がん発症に原爆放射線以外の原因がないとは言えない。しかしいろいろ原因があったとしても、原爆放射線の影響も断然あり、しかもその影響が一番大きいと思われる。そうである以上苑田さんの原爆症認定は認められなければならない」と明快に答えられた。
 郷地証人に対しても裁判官からの追加質問は一切なかった。郷地先生は最後に、安倍首相は広島や長崎の平和祈念式典などでは迅速な認定に努力するなどと言っているが、裁判の実態を知っているのか、直接法廷に来て裁判を傍聴して実態を知ることが必要ではないか、被爆国としても被爆者を守るためにも責任をもって認定制度の改革をしなければならない、そのことを強く訴える、といって証言を終えられた。

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 閉廷後いつものように大阪弁護士会館に会場を移して報告集会が催された。今日証言された苑田さん、郷地先生それぞれから挨拶と感想が述べられ、参加者一同から労いの拍手が贈られた。中道弁護士、濱本弁護士からも今日の尋問のために準備されてきた様子が紹介された。今日の傍聴には郷地先生の東神戸診療所からも3人の方が駆け付けられ、それぞれから感想が述べられた。最後に藤原精吾弁護団長から次のようなまとめのあいさつが行われた。今日の尋問は本当によく準備された法廷だった。文句のない進行だったと思う。今、官僚のセクハラ事件や旧優生保護法被害者の訴えが問題となっている。これらは被害を受けた人々が勇気を持って声を上げることによって明らかにされてきた問題だ。「私が黙っていたら将来また同じ過ちが繰り返される。二度と同じ被害者を作り出してはならない」という被害者の強い思いから始まったことだ。声をあげてきた被爆者も二度と被爆者を生みだしてはならないという思いでノーモア・ヒバクシャを闘ってきた。その思いが核兵器禁止条約の採択など核兵器廃絶の運動にも結実している。そういう意味でもこの裁判の重要さをあらためて痛感している。

 次回の法廷は来週5月16日(水)、同じ第7民事部で引き続き医師証人尋問が行われる。来月6月2日(土)には「2018ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟全面勝利をめざすつどい」が開催される。法廷の傍聴も、勝利をめざすつどいも最大限の参加で成功させていこうと確認しあって報告集会を終了した。

 尚、1月16日(火)の控訴審判決で認められなかった3人の原告(中岸勝さん、T・Iさん、原野宣弘さん)については、3人とも上告され、いずれも最高裁第3小法廷の係属となったことが報告された。

 2018年度に入って各地のノーモア・ヒバクシャ訴訟の判決が続き、しかも被曝の実態に基づいた被爆者救済の判決が連続している。
1月16日(火) 大阪高裁 3人の甲状腺機能低下症の原告が勝訴
3人とも国の積極的認定基準より遠距離の被爆だが認定
1月23日(火) 大阪地裁 労作性狭心症の原告が勝訴
国の積極的認定基準にはない疾病を認定
2月 9日(金) 広島高裁 白内障の原告が勝訴
国の積極的認定基準より遠距離で被爆だが認定
3月 7日(水) 名古屋高裁 要医療性の要件を否定されていた2人の原告(慢性甲状腺炎と
乳がん)がいずれも勝訴
経過観察も医療行為であることが認められる。
3月27日(火) 東京高裁 6人の原告全員が勝訴
国の積極的認定基準にはないバセドウ病、脳梗塞(2人)
を認定
国の基準より遅い入市(8月11日広島入市)だが認定
(多重がん)
国の積極的認定基準より遠距離の被爆だが認定(心筋梗塞
2人)

 行政と司法の乖離はいよいよ極まってきている。被爆者は裁判に訴えれば認定されるが、同じ状況・状態でも裁判に訴えなければ認定されない、認定行政の許し難い不公正な実態が露わになっている。認定を得るには裁判に訴えるしかない、しかし誰でも裁判できるわけではなく、ましてや平均年齢81歳を超えた被爆者にはもはやとても困難なことになっている。
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟の進行状況と結果を背景に、そして被爆者の置かれている今日の状況に基づいて、4月18日(水)、「裁判の全面解決と原爆症認定制度の抜本的改善を求める院内集会」が開催された。会場は参議院議員会館会議室。全国から被爆者、ノーモア・ヒバクシャ訴訟の原告、弁護団、支援の人々、日本被団協のみなさん、合わせて130人が集った。 2003年の集団訴訟以来の歩みをふりかえり、ノーモア・ヒバクシャ訴訟の現況、特に2018年度に入ってから相次いでいる画期的な判決の特徴が報告された。各地の被爆者、原告から闘いの状況、思いの表明、訴えがなされた。その上で、原爆症認定制度抜本的改革のために2012年に公表された日本被団協の提言を確認しつつ、その前段階として、法の改定以前にもできる当面の認定基準改善の要求を提出することが提案され、参加者全員で確認された。目的は認定基準の内容を少しでも早く前進させて高齢化し重い病気に苦しんでいる被爆者を一人でも多く救済すること、長い期間に渡って裁判を強いられている原告を一日も早く解放するためだ。当面の改善要求の内容は、一連の判決で下されきた水準に合わせるものとされ、言わば、“行政は司法に従え”という要求だ。具体的には、判決で認められた狭心症、甲状腺機能亢進症、脳梗塞なども積極的認定基準に加えること、直爆を約3.5km以内に拡大すること(白内障は除く)、入市条件も100時間以内2km以内と100時間経過後2週間以内の2km以内に1週間以上滞在に拡大すること、総合認定にも柔軟な対応を求め、要医療性要件には経過観察も具体的に明記すること。
当面の要求は「裁判の全面解決と認定制度の改正に関する要請書」にまとめられて、この日の集会の場で各政党を代表して参加された国会議員に手渡して要請された。参加のあった政党は日本共産党、自民党、立憲民主党、民進党、希望の党、公明党、社民党で、維新の党を除くほぼ全政党から15人の国会議員の参加があった。それぞれの議員から激励と決意表明のあいさつがあったが、特に野党の共同ヒアリングの課題にして厚生労働省との詰めた交渉をしていきたいとの発言に私たちも勇気づけられるものがあった。
 原爆症認定を得るために、認定制度そのものを変えるために、被爆者はやむを得ず集団訴訟を闘い、それに続くノーモア・ヒバクシャ訴訟も闘ってきた。そして被爆の実態に基づき被爆者の訴えに寄り添う司法判断を勝ち取ってきた。しかし、これ以上の裁判を新たに提訴し、司法の場でさらに闘いを続けていくことは実際問題として難しくなっている。現在係争中の裁判を徹底して闘い抜き、確実な勝訴判決を勝ち取っていくことと、それも力にして、政治の力も得て要求の実現、制度の改革をはかっていくことが今強く求められている。
 被爆者のもう一つの悲願である核兵器廃絶は、昨年の核兵器禁止条約の採択、朝鮮半島の非核化をめざす歴史的な会談など、世界とアジアは大きく動き出してきている。日本国内でも真っ当な政府を作り出していくことと平和憲法を守り抜く課題が極めて重要な局面を迎えている。核兵器の廃絶と日本の平和憲法を守り抜く運動とを結びつけながら、原爆症認定制度抜本改革をめざしていきたい。

ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2018年 5月16日(水)14:00 1010号法廷 地裁第 7民事部 医師証人尋問
2018年 6月 2日(土)午後 大阪グリーン会館 全面勝利をめざすつどい
2018年 6月20日(水)15:00 1007号法廷 地裁第 2民事部 弁論


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2018.06.09 Sat l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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