本日、第7民事部係属の事件のうち、原告お二人について、分離・結審の上、10月27日に判決の言渡期日が指定されました。
心筋梗塞と乳がんを申請疾病とする原告。
このところ、大阪高裁で逆転敗訴判決を食らっていますので、負けるわけにはいきません。
以下は、本日の法廷で意見陳述書をした中森俊久弁護士の意見陳述。

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意見陳述書
2016年5月10日

大阪地方裁判所第7民事部合議4係 御中
          上記原告ら訴訟代理人  弁護士  中  森  俊  久

1 被告は、本件訴訟においても、「科学的経験則を特定の原告に当てはめて放射線起因性の判断に用いるためには、的確な線量評価が不可欠である。」(被告第13準備書面9頁)とか、「特定の個人について放射線起因性の有無を判断するためには、特定の個人ごとに原爆放射線以外の他原因と当該疾病の発症との因果関係の存否についても検討する必要がある。そして、当該因果関係が存在する可能性が否定できないときに、放射線起因性の要件該当性を認めることも許されない。」(同13頁)等の主張をしています。
 しかしながら、これらの主張は、長崎原爆松谷訴訟で当時の厚生大臣が上告理由として主張し、その後の最高裁判決によって排斥されている見解を蒸し返しているにすぎません。即ち、長崎松谷訴訟において、当時の厚生大臣は、「残留放射能、体内被曝の影響については、被上告人は被爆の一週間後に爆心地付近を列車で通過したに過ぎず、その居住した地域を考慮しても、DS八六が推定する値からはるかに低い程度の放射線の被曝があったに過ぎないと推認され、さらに、具体的にどの程度の放射線の被曝があったかについて具体的な数値を概算でも示すことができないのであるから、被上告人に対するこれらの影響を肯定できるだけの経験則はいまだに示されていない。」であるとか、「現実の原爆被爆者は、劣悪な生活環境と栄養状態にあったのであり、このような状況下での放射線被爆の影響は、近時の医療現場や原子力作業場における被曝とはおのずから異なるものがあると推認されると判断しているが、現実の被爆者が劣悪な生活環境と栄養状態にあったことはむしろ被上告人の受傷した広汎な脳孔症の治療遷延の理由となる。」と主張したものの、最高裁判所は、「DS86としきい値理論とを機械的に適用することによっては前記三1(七)の事実(注、入市被爆者や遠距離被爆者に生じた脱毛等の急性症状が認められたこと)を十分に説明することができないものと思われる。例えば、放射線による急性症状の一つの典型である脱毛について、DS86としきい値論を機械的に適用する限りでは発生するはずのない地域で発生した脱毛の大半を栄養状態又は心因的なもの等放射線以外の原因によるものと断ずることには、ちゅうちょを覚えざるを得ない。」等述べて、先述の2点を含む厚生大臣の8つの論点に関する上告理由をすべて排斥し、「放射線起因性があるとの認定を導くことも可能であって、それが経験則上許されないものとまで断じることはできない。」として、放射線の起因性を認めました。

2 このような原爆症認定制度の趣旨、目的に照らしたうえでの起因性の立証に関する判断は、その後の集団訴訟及びノーモアヒバクシャ訴訟の判決に引き継がれています。
 いわゆる原爆症認定集団訴訟(第1陣)の大阪高等裁判所判決(平成18年(行コ)第58号:2008年(平成20年)5月30日判決)は、放射線起因性についての立証の対象につき、「放射線起因性の判断にあたっては、原爆放射線被曝の事実が疾病等の発生又は進行に影響を与えた関係(専ら又は主として放射線が起因している場合のほか、体質や被爆時の体調などの要因やストレス等の他要因が影響している可能性が否定できない場合においても、他要因が主たる原因と認められない場合を含む。)を立証の対象とするのが相当であり」とし、また、放射線起因性の立証方法については、「疾病等が発生するに至った医学的、病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく、被爆状況、急性症状の有無や経過、被爆後の行動やその後の生活状況、疾病等の具体的症状や発症に至る経緯、健康診断や検診の結果、治療状況等を全体的・総合的に把握し、これらの事実と、放射線被曝による人体への影響に関する統計学的、疫学的知見等を考慮した上で、原爆放射線被曝の事実が疾病等の発生又は進行に影響を与えた関係が合理的に是認できる場合は、放射線起因性の存在について、高度の蓋然性をもって立証されたものと評価するべきである」(335頁。)としています。
 また、近時の平成27年10月29日東京地裁判決も、「他原因の検討」において「疾病の発生においては、一般に、複数の要素が複合的に関与するものであるから、他の疾病要因と共同関係があったとしても、原爆の放射線によって当該疾病の発症が促進されたと認められる場合には、放射線の影響がなくとも当該疾病が発症していたといえるような特段の事情がなければ、放射線起因性が否定されることはなく、放射線起因性を肯定するのが相当である。」(甲A733、306頁)と述べています。被告は、これまでの判例の集積に基づいたなされた同東京地裁判決を「極めて特異な判断基準を使用した裁判例」と断言し、さらには、放射線の影響を過小評価したいとのバイアスのもとで、数多くの遠距離被曝者や入市被爆者の調査結果を個々に論難していますが、結局のところの被告の主張は、総合評価を否定しない一方で、各原告の線量評価と他原因の殊更の強調に固執しているに過ぎず、判例の集積から導かれる総合評価とは余りに対照的であることを改めて指摘しておきます。本年4月11日の福岡高等裁判所判決も、1審で勝訴した被爆者3名についての国側の控訴を棄却し、現在の認定基準である「新しい審査の基準」の不十分さを指摘しました。被爆者行政を担う国が、これまでの多くの被爆者勝訴の裁判例を顧みず、自らに有利に個別判断がなされた判決のみを挙げて、それが「最高裁平成12年判決と整合する。」と主張している限り、本件問題は一向に解決致しません。

3 被告は、本件訴訟において、「原告円田の推定被曝線量は、同原告の主張を前提にしても、初期放射線による被曝線量が0.002グレイ未満、誘導放射線による被曝線量も0.0000016グレイを下回る程度であるから、原告円田の推定被曝線量は、全体量として、約0.0020016グレイを下回る程度である。」(被告第5準備書面・9頁)、「原告内田は、『相当程度の放射線被曝をした』と主張するのみで、その被曝線量が0.2グレイ以上であることすら主張しておらず、また、これが0.2グレイ以上であることを認めるに足りる科学的根拠を示していない。」(被告第9準備書面13~14頁)と主張しています。
 しかしながら、遠距離被爆者や入市被爆者につき、被告の被曝線量を導く論拠に従えば生じないはずの深刻かつ多大な被害が現に生じているのが事実であり、原告は、そのことをこれまで繰り返し主張・立証してきました。被告は、遠距離被爆者や入市被爆者に現に生じている被害の事実をどのように説明するのでしょうか。事実から目を背け、自らが物差しとする線量推定にのみ固執する被告の主張は、既に論理破綻していると言わざるをえません。放射線の影響につき科学的に未解明な部分が多く存在することに加え、きのこ雲の下で生じた惨事につき被告主張とは明らかに矛盾する被害実態を裏付ける多数の証拠が存在する状況のもと、被爆者援護法の制度趣旨に照らした適正な判断がなされることを願います。
以上

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2016.05.10 Tue l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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