被爆二世の
ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(34)

大阪高裁第6民事部が逆転敗訴の不当判決!
しかし司法判断の後退は許さない!悔しさをバネに一層の奮闘を誓いあう!
2015年10月31日(土)


 10月29日(木)、ノ―モア・ヒバクシャ近畿訴訟の初めての控訴審となる武田武俊さん(故人)への判決言い渡しの日を迎えた。午後1時20分、いつものように裁判所前の西天満若松浜公園に集合して事前集会を行ない、メディアのカメラ砲列前を入廷行進して判決言い渡しの行なわれる別館82号法廷に足を運んだ。この控訴審の第1回口頭弁論が昨年の10月10日だったのでほぼ1年を経てこの日を迎えたことになる。

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(判決前集会には、第1次訴訟原告の木村民子さんの姿も)

 この一年4回の口頭弁論が行われた。第1回の昨年10月10日は異例とも言える控訴人(国)側の口頭による意見陳述が冒頭にあり、これに対して被控訴人側(被爆者側)代理人の3人の弁護士から徹底批判、反論が加えられた。2回目は12月12日、この時は国側の証人採用申請に対して、尾藤廣喜弁護団幹事長がその必要性のないことを厳しく指摘した日だった。証人申請の取り扱いはその場では留保されたが、その後結局却下されることになった。3回目は今年に入った4月16日。この時の意見陳述は訴訟進行に対する国側の数々の遅延策に対して豊島達哉弁護士が厳しく批判したのが主な内容だった。そして7月7日の4回目が最終弁論、結審の日だった。最後は愛須勝也弁護団事務局長が原判決の正しさをあらためて示し、国側の控訴を棄却するよう訴えて陳述は締めくくられた。この一年を振り返ると、口頭での意見陳述の内容や訴訟進行のあり様等々から、控訴審においても原判決支持、必ず勝利すると、誰もが確信をもってのぞんだ。
午後2時開廷、しかし、係属部の大阪高裁第6民事部の水上敏裁判長からは「原判決を取り消す」という思いもかけない一言、判決が言い渡された。言い渡された瞬間、言葉の意味が理解できなかったわけではない。しかし、まさか!という思いと、どうして!という疑問がごちゃ混ぜになって、傍聴席はしばしお互いの顔を見合わせ、「一体何が起こったんや!」とお互いがお互いに確かめ合おうする状況になってしまった。やがて裁判所正門で愛須弁護士が無念の思いを胸に「不当判決」の旗出しを行なった。

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 報告集会は北浜ビジネス会館に会場を移して行なわれた。実はこの日の判決は判決文正本が間にあわず、正本のないまま判決言い渡しがなされるという異例の事態であったことが集会で知らされた。このため判決後の記者会見は正本を読み込む間もなく行なわれ、報告集会も「判決要旨」に基づいて行なわれるしかなかった。裁判所において判決決定に至る過程で何があったのか、いろいろと憶測されるしかないが、不可解なことであることに間違いない事態だと説明された。
 報告集会では正式な開会前に司会の西晃弁護士から判決要旨の概要が説明され、開会後愛須弁護士からより詳しく以下のような報告がなされた。今回の判決の最初の問題点は武田さんの長崎市内入市の事実認定が、武田さん本人の陳述を否定し、国側の主張に近いものに変えられた。武田さんは8月15日に爆心地まで入市し3日間滞在したことを記憶していてその通り主張してきた。一審は原告本人の訴えを尊重したが、二審は様々な理由をつけてそれを否定し、実は本当に入市したのは8月17日であり爆心地に立ち寄ったのも1泊2日だけだったと事実認定を変えてしまった。本人は既にこの世にない。本人にもう一度問い質す機会も術もないのに裁判所がこんな重大な事実認定を言わば勝手に変えてしまっていいのか。1年間の裁判を傍聴していてもこのことについての審理が慎重に行われていたようにはとても思えない。判決は「武田さんの被爆状況についての証言はそれを過大に見せようとしているので採用することができない」と言っているに等しい。それこそ裁判所のあってはならない推測なのではないか。

 判決の最も大きな問題点はこれまでの原爆症認定集団訴訟、ノ―モア・ヒバクシャ訴訟の司法判断の到達点を翻して、武田さんの肝細胞がんの放射線起因性を否定したことだ。入市日の事実認定を変えることによって武田さんの被曝放射線量は極めて軽微なものであると描き、その程度であるなら肝細胞がんを発症するまでには至らないとした。それは従来の司法判断が退けてきたはずのしきい値論の復活に他ならない。また武田さんはウィルス感染からC型肝炎、肝硬変、肝細胞がん発症に至ったとされているが、判決は放射線被曝によってC型肝炎ウィルスに感染する可能性が高まったり、放射線被曝が肝機能障害を促進する科学的知見は存在しないとした。そしてかって受けた輸血こそがC型肝炎ウィルス感染の原因だと決めつける他原因論を採用した。これはこれまでの司法判断が認めてきたC型肝炎に放射線被曝が影響するとした所見と異なる。明らかな後退だ。
 一方で判決は、「放射線起因性の判断は高度の蓋然性が認められるか否かで判断するのが相当」とか、「残留放射線による外部被曝と内部被曝の影響は無視することができない」、「武田さんは必ずしも軽微とはいえない程度の被曝をしたことがうかがわれる」、「一般に、肝臓がんと被曝に関連性があること自体は、これを肯定することができる」等、その箇所だけを読めば従来からの司法判断を正当に継承したかのような評価も述べている。しかし結論は「以上を総合して考慮すると、長崎原爆による被曝が、武田の肝臓がん発症に直接又は間接に影響を与えたことを是認し得る高度の蓋然性までは認められない」とした。控訴側、被控訴側双方の主張に沿った記述を一応しながら、最後は裁判所の腹一つ、匙加減一つで決めたかのような印象だ。そこには政治的な判断が働いたのではないかと感想を持った報告集会参加者も少なくなかったようだ。
 いずれにしても、被爆者援護救済をめざす被爆者援護法の精神に背き、そこから反対に遠ざかる内容で下された不当判決であることに違いはない。とても残念だが、今日のところはそのことを許してしまう結果となってしまった。
 これまでの原爆症認定訴訟は、集団訴訟にしてもノ―モア・ヒバクシャ訴訟にしても、多数の原告がまとまってまさに集団訴訟としてとりくんできた。裁判は総論の立証を基礎にその上に個別立証を重ねるようにして行なってきた。今、国側の厳しい巻き返しの中で、立証ハードルの高い原告だけが控訴され取り残されていき、そこには集団訴訟とはいえない個別訴訟のような状況が現出している。私たちの運動が進み、それに対する相手との関係で新しい事態が、乗り越えていくべき課題として生じている。もう一度原点に立ち返って、立証のあり方を考え直していく必要がある、と、判決を受けての受け止めとこれからの決意のこもった説明が愛須弁護士からなされた。
報告集会途中、同じ日の午後3時からあった東京地裁第一陣の判決言い渡しの結果が報告され、17人の原告全員勝訴の知らせに会場は沸きかえった。これで大阪高裁も勝利していて、東西の判決が揃って勝てていたらどれだけ大きなインパクトを与えることになっていたかと、それだけに一層悔しい思いを募らせる瞬間でもあった。

 記者会見を終えた弁護団も報告集会に合流し、藤原精吾弁護団長、尾藤弁護団幹事長からも報告が行われた。大変残念な結果で到底納得できるものではない。被曝線量が問題にされたことも、国際的知見として認められているかどうかが問題にされたことも、C型肝炎への影響の問題も、すべてが従来の原爆症認定訴訟とは逆の発想で判決された。権威・権力に擦り寄って被爆者の請求を退けた判決だ。これから上告を検討していく。今回の判決をバネにして巻き返しをはかっていきたい、といった内容だった。
この日の判決には武田さんの訴訟を承継されたご長男夫妻が、事前集会から、法廷、判決後の記者会見、そして報告集会へとすべてに参加された。そのご長男から次のようなあいさつがなされた。みなさんにお礼申し上げたい。まだ道は残されていると思う。今日東京であった判決の結果も合わせて考え、これから新たに次の裁判の機会に進んで行きたい。父が生きている間に認定を得ることは叶わなかったけど、これからも認定目指して父と一緒に闘っていきたい。これからもよろしくお願いしたい。参加者全員から大きな拍手と激励の花束が贈られたが、弁護団や私たち支援する側の方が勇気づけられ、励まされたようなあいさつだった。

 最後に藤原団長から新たな闘いに向けた呼びかけが行われた。私たちの闘いは長い闘いであり、被爆者の完全救済と核廃絶をめざす壮大な闘いだ。その途上で勝つことも、負けることもあり得る。今日の体験をこれからの力にしてさらに頑張っていこう、と。最後の最後に、こういう時こそ力を出さなければならないとして、団結頑張ろう三唱が呼びかけられ、「今日の不当判決をこのまま許すのではなく、断固闘って勝利するまで頑張ることを誓って、団結ガンバロー」と全員で力いっぱいの唱和をした。
悔しい思いは否定できない、残念な気持ちもそう簡単には消えてしまわない。それでももう一度頑張り直していこう、もっと頑張っていこうと、と顔を上げ、力を甦らしながら、午後5時、報告集会を終了した。

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(昨年3月20日の地裁の勝訴判決を受けて喜ぶ武田武俊さん。この直後に国から控訴され、6月に死亡)

 ノ―モア・ヒバクシャ近畿訴訟は引き続いて控訴審Bグループ第7民事部の裁判日程も来月27日に迫っている。この日に結審となる可能性もある。原告は梶川一雄さん(故人)一人でこちらも個別訴訟に近い状態にある。争点は申請疾患である心筋梗塞の放射線起因性で、国側は喫煙等による他原因論を主張していることは先日の証人尋問で明らかだ。関連して救護被爆及び8月10日からの入市被爆(梶川さんは広島被爆)の被曝線量問題も主張されているのかもしれない。今回の武田さんとよく似た構図のような気がする。ノ―モア・ヒバクシャ訴訟の現状を広くしっかりと知らせていくこと、裁判当日の傍聴参加を最大限よびかけていくこと、そして争点となっている内容を私たちもあらためてしっかりと認識理解し、注視するようにしていきたい。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
11月27日(金) 10:00 高裁B(第7民事部) 別館83号 結審予定(梶川さん)
12月 3日(木) 14:00 地裁第7民事部 806合 弁論(原告7人)
12月11日(金) 11:00 地裁第2民事部 1007号 弁論(原告5人)
2016年 1月20日(水) 11:00 高裁C(第13民事部) 202号 弁論(原告6人)
2016年 4月21日(木) 11:00 高裁C(第13民事部) 202号 弁論(原告6人)


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