意見陳述書

大阪高等裁判所第13民事部E2係御中
           2015年(平成27年)10月5日
            控訴人ら及び被控訴人ら(一審原告ら)訴訟代理人                  弁護士  尾  藤  廣  喜

1 本件は、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の一環としての裁判です。
 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟は、それまで全国17地裁306人の原告が提訴していた集団訴訟について、2009年8月6日に厚生労働大臣と日本原水爆被爆者団体協議会(以下「被団協」といいます。)との間で結ばれた「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に関する確認書」による解決の約束を厚生労働大臣が守らなかったことによって提起された新しい裁判です。
 この8・6確認によって、国は原爆症認定についての被爆者との訴訟での争いをやめ、控訴を取り下げる。国は被爆者に対する責任を認め、判決で認定されなかった被爆者についても、基金による補償を行う。さらに、厚生労働大臣と被団協・原告団・弁護団は定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、定期協議の場を通じて解決を図る。と約束していました。
 ところが、国は、この約束を守らず、厚生労働大臣は、2013年12月16日にそれまでの裁判の到達点を無視した「新しい審査の方針」を定め、特に、非がん疾患では直爆で2キロとか、入市1キロ以内などの新たな制限枠を設け、しかもこれを機械的に適用して原爆症認定請求を却下し続けています。
 このため、集団訴訟終結後、新たに全国7地裁(東京、名古屋、大阪、広島、岡山、熊本、長崎)に116人が提訴したのが、ノーモア・ヒバクシャ訴訟です。

2 「新しい審査の方針」がとられて以来、ノーモア・ヒバクシャ訴訟では、6件の判決があり、いずれも厚生労働大臣の却下処分を取り消しておりますが、その中で、本件訴訟の原判決は、大きな問題・違法性をかかえた判決となっています。
 即ち、原判決は、長崎原爆松谷訴訟の最高裁判決〔最高裁2000年(平成12年)7月18日第三小法廷判決・裁判集民事198号529頁)の判断枠組みを採用しながらも、申請疾病について、「高脂血症」や「ストレス」、さらには「原発性アルドステロン症」など放射線以外の他の危険因子がある場合で、その危険因子の危険の程度も重いということができる場合には、原告が被曝した放射線の線量が非常に高いものと認められない限り認定できないとしており、この判断枠組みのもとで、一審原告控訴人らの請求を棄却しているのです。
 この論理は、被爆者について、①「健康に影響があり得る程度の線量の放射線に被曝したものと認められる」場合と、「被曝した放射線の線量が非常に高いと考えられる」場合とが明確に区別できるとして、分離して考え、②問題とされる疾病について、他の要因と考えられる因子があった場合に、この程度が「非常に重い」ということがであれば、被爆者が「被曝した放射線の線量が非常に高いものとまでは認められない」限り起因性が認められないとしているものでして、起因性の立証のハードルを根拠なく高めているのです。
 被爆者が現実に被曝した放射線量を具体的に明らかにすることはもともと不可能でありまして、原判決のいう「被曝した放射線の線量が非常に高いものである」という立証を行うことは、事実上不可能です。
 したがって、原判決の論理によれば、他の要因が考えられる被爆者について放射線起因性の立証を行うことは、事実上不可能という結果になります。
 この考え方は、国の代理人が、原告が何グレイの放射線を浴びたのかを各人ごとに明らかにせよとの無理難題を主張しているの同一の考え方に立っています。

3  これに対して、原爆症認定集団訴訟(第1陣)の大阪高等裁判所判決〔平成18年(行コ)第58号:2008年(平成20年)5月30日判決〕は、「放射線起因性」の判断の中での他の要因との関係については、第1に、原爆放射線被曝の事実が疾病等の発生又は進行に影響を与えた関係については、他要因が主たる原因と認められない限り立証の対象となるとしています。また、第2に、立証の程度については、原爆放射線被曝の事実が疾病等の発生又は進行に影響を与えた関係が合理的に是認できる場合には、起因性が立証されたもの認めても良いとしています。
 さらに、原爆症認定集団訴訟の千葉事件の東京高等裁判所判決〔平成20年(行コ)第378号:2009年(平成21年)3月12日判決、判例タイムズ1303号104頁〕では、「放射線起因性」の判断における他の要因との関係について、まず第1に、被爆者にがん以外の疾患が発症し又はその者のがん以外の疾患が増悪した場合において、その疾患一般について原爆による放射線被曝がその発症又は増悪に有意に寄与すると認められているということができる場合で、新審査方針が設定した原爆の被爆地点と爆心地との距離(「新審査方針が設定した原爆の被爆地点と爆心地との距離(やや離れているものであっても、上記の距離と格段の相違がないと認められるものも含む。)という基準を満たすときは、「原爆放射線を被曝した者の被曝線量が一定数値以上のものであることが確認されてなくても、放射線被曝と当該疾患の発症又は治癒能力低下による増悪という特定の結果発生を招来した関係が存在することが、事実上推定されることになる」として、厚生労働大臣に事実上の反証の必要があり、第2に、「特段の事情を認め難いときには、放射線被曝が当該疾患の発症又は増悪という特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性の証明があったものということができる」と判断しています。
 つまり、両判決とも原判決の判断とは全く反対の論理を示しているのです。

4  放射線影響研究所の前大久保利晃理事長は、「わかっているのは放射線被爆の5%」にしかすぎないと言っておられます。
 被爆者が現実に被曝した放射線量を具体的に明らかにすることを要求すること、また、原判決のいう「被曝した放射線の線量が非常に高いものである」という立証を被爆者に求めることは、事実上の不可能を強いるものであり、救済の否定以外のなにものでもありません。
 貴裁判所におかれては、これまでの判決の到達点を踏まえた、被爆者の実態に基づいて、被爆者の援護のために作られた法の趣旨に基づいた判断基準を示していただき、原判決の一審原告敗訴部分を取り消していただきたいと存じます。
                                以上
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2015.10.08 Thu l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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