国が提出してきた「連名意見書」(私たち弁護団は、これを「御用学者意見書」と呼んでいますが)には、「原爆症認定に関する裁判例には、放射線による健康影響について、国際的に広く認められた「科学的知見」から、大きく逸脱した判断がみられる、その誤った判断を放置しておくと、誤った認識が国民の中に浸透し、「様々な分野に影響が及ぶおそれが大きい」と言っています。
「様々な分野」が福島第一原発事故の被害者の救済や、原発ゼロを求める運動であろうことは容易に分かります。
また、意見書は、放射線の健康被害に関する研究成果は膨大で、「様々な質の研究が混在」しているが、適正な判断のためには、国際機関や学会等で広く合意された知見に依拠することが重要であり、その「知見」とは国連科学委員会(UNSCEAR)の報告書(これがコンセンサス=定説)、国際放射線防護委員会(ICRP)や国連原子力機関(ICRP)の見解だといいます。
 また、連名意見書は、これまで原爆被爆者の被曝線量を推計する努力が続けられ、残留放射線の影響は、健康被害が生じるような線量地域は極めて限られており、それ以外に仮にあっても、健康被害が生じるような線量ではない、浴びる線量が同じならば内部被曝は外部被曝と変わるところがない、入市被爆者などの急性症状から被曝線量を推論するのは間違いであるなど、これまでの集団訴訟でことごとく否定された国の主張をまたぞろ持ち出してきています。
 驚くべきは、「原爆投下当時の被曝線量について不明な点があるといっても、総合的にみれば、不明な部分は一部であり、不明な度合いは限られている」と言い切っていることです。
 放射線の専門家でもない「専門家」らにそんなことが分かるのでしょうか。
 これを前提に、国は、最近の裁判の中で、原告に対して、「原告らが浴びたとされる線量は何グレイなのか明らかにせよ」と言い出すに至っています。
 先日も医師尋問の中で同じ尋問をして、傍聴席から失笑が漏れていました。
 これらを前提に、「専門家意見書」は、「今後の訴訟において、現在の積極的認定範囲を超えて、広く放射線起因性を認める判断がなされるとすれば、国際的に認められた科学的な知見から大きくかけ離れたものとなり、放射線による健康影響について、国民に大きな誤解をもたらすことが懸念される。」とまで言い切っています。
 ここまでくると、専門家の肩書きを借りた裁判所に対する恫喝ですね。
 
しかし、判決は、「専門家意見書」が言うような科学的判断などしていません。
 むしろ、審査の方針の基礎にあるDS02などの線量評価システムについて、相当の科学的合理性を認めています。その上で、次のように述べているのです。
 
 「被爆者援護法10条1項の放射線起因性の要件については、原告において、原爆放射線に被曝したことにより、その負傷又は疾病ないしは治癒能力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性を証明する必要があり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを要すると解するべきである。
 もっとも、人間の身体に疾病等が生じた場合に、その発症に至る過程においては、多くの要因が複合的に関連していることが通常であって、特定の要因から当該疾病等の発症に至った機序を逐一解明することは自ずから困難が伴うものであり、殊に、放射線による後障害は、放射線に起因することによって特異な症状を呈するものではなく、その症状は放射線に起因しない場合と同様であり、また、放射線が人体に影響を与える機序は、科学的にその詳細が解明されているものではなく、長年月にわたる調査にもかかわらず、放射線と疾病等との関係についての知見は、統計学的、疫学的解析による有意性の確認など、限られたものにとどまっており、これらの科学的知見にも一定の限界が存するものであるから、科学的根拠の存在を余りに厳密に求めることは、被爆者の救済を目的とする被爆者援護法の趣旨に沿わないというべきである。
 したがって、放射線起因性の判断にあたっては、当該疾病等が発症するに至った医学的、病理学的機序を直接証明することを求めるのではなく、当該被爆者の原爆による放射線被曝の程度と、統計学的・疫学的知見等に基づく申請疾病等との放射線被曝の関連性の有無及び程度とを中心的な考慮要素としつつ、これに当該疾病等の具体的症状やその症状の推移、その他の疾病に係る病歴(既往歴)、当該疾病に係る他の原因(危険因子)の有無及び程度等を総合的に考慮して、原爆放射線被曝の事実が当該申請に係る疾病等の発症又は治癒力の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験則に照らして判断するのが相当である。そして、当該被爆者の原爆による放射線被曝の程度を考慮するに当たっては、(略)、DS02及びDS86報告書第6章等により算定される被曝線量は、あくまで一応の目安とするにとどめるのが相当であり、当該被爆者の被爆状況、被爆後の行動、活動内容、被爆後に生じた症状等に鑑み、様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要があるというべきである。」(平成24年3月9日大阪地方裁判所第2民事部判決)
 
 連名意見書に名を連ねる「専門家」らは、この判決を読んでいるとは到底思えません。
 これまでにも、国は、松谷訴訟の判決を受けて、「専門家」に「研究」を委託しています。
 それが、原爆症認定集団訴訟の近畿訴訟において、厚労省側のエースとして証人にたった小佐古敏壮氏(当時、東京大学原子力総合研究センター)。あの涙の記者会見で一躍有名になったあの小佐古氏です。
 小佐古氏は、平成9年度の厚生科学特別研究事業の科研費で、「原子爆弾による被曝線量推計の今日的問題点に関する研究」という論文を発表しています(小佐古氏の証言によると、論文というより、「研究報告」という控えめな言い方をされていますが)。
 その抄録には、「DS86は、基本的には今日の科学的知見上裁量のものであるものの、近年、裁判等の判決の中で否定的とも受け取れる判断が示されたこと等から、一部の被爆者等に不信や不満の声もある。こうした不信や不満は、科学的には十分反論できるような内容がほとんどであるが、背景には次のような点があると考えられる(略)。
 そこで、本研究班は、上記のような問題点や背景に対応することとして、主に次のような調査研究を行った。
(a)~(c)略
(d)(a)~(b)を踏まえた一般啓発・広報用素材の作成
 この研究のために、厚労省は小佐古氏に対して、500万円もの多額の科研費を支給しています。
 小佐古氏は、この科研費で、「一般啓発・広報用素材」を作成し、松谷訴訟の福岡高裁に証拠として提出しているのです。
 ちなみに、福岡高裁は、小佐古氏の意見書にもかかわらず、平成9年11月7日に「DS86はそのままでは適用しがたい」という判決を出しているのです。つまり、小佐古氏と厚労省の狙いは見事に失敗しているのです。
 小佐古氏は、その後、集団訴訟の国側エースとして証人に立ち、その功績をかわれたかどうか定かではありませんが、東京大学教授に昇進されています(証言当時は助教授)。
 今回の「専門家意見書」が出てきた経緯とそっくりです。

 今回の「専門家意見書」が許せないのは、国が集団訴訟で主張し続けてきたことを、性懲りも無く、そのまま鸚鵡返しのように繰り返しているということです。
 そして、昨年12月16日の原爆症認定の審査基準の再改定は、科学的に影響が認められるよりも広い範囲で放射線起因性を認めており、それは国民に、「放射線による健康被害が実際よりも広く及ぶとの誤解」を生じさせるおよそれがあるから、今後の訴訟においては、現在の積極認定範囲を超えて、広く放射線起因性を認める判断がなされるとすれば、国際的に認められた科学的知見から大きくかけ離れたものになるから、さらに大きな誤解を国民に与えると警告しているのです。
 つまり、新基準から、1メートルでも、1時間でも外れる被爆者の申請は切り捨てるべきだと公言しているのです。機械的に切り捨てろ、1㎜たりとも拡大は許せない、耐えられないと。
 このような、「専門家意見書」の立場が、国は、2009(平成21)年8月6日の「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」の中で、「厚生労働大臣と被団協・原告団・弁護団は、定期協議の場を設け、今後、訴訟の場で争う必要のないよう、この定期協議の場を通じて解決を図る」と約束したことと真っ向から矛盾することは明かです。

 先日の厚労省の発表では、被爆者健康手帳をもっている人はとうとう20万人を切ってしまったそうです。被爆者の平均年齢は79.44歳。来年には80歳を超えることは確実です。多くの被爆者が高齢化し、亡くなっています。 
 6月26日、原告の武田武俊さんも亡くなられました。
 3月20日に、待ち望んだ勝訴判決を受けたのにもかかわらず、国は無情にも控訴してきました。いままで、8・6合意の趣旨に則って、敗訴しても控訴しなかったにもかかわらず、国は、「専門家意見書」の線で、「新基準」を死守すべく、なりふり構わず、控訴してきています。
 新基準から1メートルでも、1時間でも外れる被爆者は、控訴して徹底的に争うという宣言をしている訳です。国は、自分たちがやっている愚かさを自覚すべきです。
 国は、控訴審だけではなく、7月11日に結審を迎える大阪地裁第2民事部の事件の最終準備書面の提出期日に、「専門家意見書」を証拠として提出してきました。「専門家意見書」が批判する「誤った判決」を出し続けている裁判体にです。弁護団は時期に遅れた攻撃防御であると認めない方針です。
 おまけで言えば、国は、今までの主張の総見直しを図っているといいます。
 そして、原告に対して、原告らが浴びた放射線量は、具体的に何グレイなのか明らかにしろと釈明を求めてきています。もう、開いた口がふさがらない状態です。
 最後に、先日、講演を聴いた岡山大学の津田敏秀教授はこのように語っていました。
「医学会は議論をしない。褒めあうだけの社交界。フクシマのがん多発のような重要な問題は避けて通る。学会が本来の役割を果たしていない。」
「官僚は、実際に研究をしていてデータを出して論文をまとめている人を招かない。データに基づいた議論をするから。結論に基づいた議論をしないから、官僚は把握できない。官僚は把握できないことを言う人を嫌がる。自分たちの把握できていないことを言う人を敵視する。味方じゃないと思う。『安牌』『端牌』というリストがある。予想できる意見をいう研究者のリストがあって、そういう人達を招くようにしている。常に新しい、予測できないことを発表する。それを敵視するリストもある。そういう研究者の意見が国の対策に反映できない。」
「専門家意見書」に名を連ねる『専門家」の皆さんが、このリストの中に入っているのは間違いない。
スポンサーサイト
2014.07.09 Wed l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

コメント

コメントの投稿












トラックバック

トラックバック URL
http://fujiwaradannchou.blog50.fc2.com/tb.php/353-d1e2b6ce
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)