被爆二世の
ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記 ⑩(その1)
厚労省は8月2日判決の確定に基づいて認定行政を改めよ!
要医療性を否定する被告の主張を医師証言が断罪!(9月4日、12日)

2013年9月13日(金)

ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・大阪地裁第2民事部における第2次義務付けと却下処分取り消し訴訟の原告8人全員勝訴判決(8月2日)は、1週間後の8月9日(金)安倍首相が「国は控訴しない」ことを表明し判決が確定した。メディアは「首相は個々のケースについて様々な観点から検討して総合勘案し、控訴しないこととしたと語った。被爆者の高齢化が進むなか、首相は救済を急ぐ考えで、厚生労働省に大阪地裁判決の分析を指示。その結果、判決は原爆症の認定制度を否定するものではないと判断し、個別の事例として認めることとした。」と報道した(朝日新聞デジタル版8月9日付)。だが「様々な観点からの検討」、「判決の分析の結果」、「判決は認定制度を否定するものではない」等々のその具体的内容はまったく明らかでない。判決は、直爆被曝線量を機械的に適用する国の算定方法を退け、原告の具体的被爆状況、被爆後の行動、活動内容、被爆後の症状等に照らし、内部被曝の可能性も含めて総合的に検討しなければならないと断じたのではないのか。心筋梗塞に放射線影響のしきい値は存在しないことを確認し、甲状腺機能低下症と低線量放射線被曝の関係も認めたのだ。個々のケースに限定して下された判決ではなく、厚生労働省の現在の認定基準の実態、認定行政の基本に至るまでが誤りであると批判され、改めるよう求められたものではなかったか。控訴もしなかった国は判決をどう受け止め、これからどう対応しようとしているのかが問われているはずなのに。

8月15日、田村憲久厚生労働大臣は記者会見で、記者からの質問があって初めて今回の判決とその確定について簡単にコメントした。内容は首相表明と何等変わらず、年末までとされているあり方検討会の出す「方向性」に先送りしたものだった。おそらく全国の被爆者は今回の判決と厚生労働省の態度に大きな関心をもって注視していたはずだ。特に心筋梗塞や甲状腺機能低下症に苦しみながら「放射線起因性は認められない」として申請を却下処分され、切り捨てられた人達にとって意味の重い判決だったはずだ。少なくともこうした被爆者に対して、国民の負託を担う行政機関の厚生労働省はしっかりとした対応をとるべき責任と義務がある。

とは言えノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の最初の判決を全面勝訴し、9月20日にはあらためて厚生労働大臣との定期協議も再開されることが明らかになり、少しは明るい気分を持ちつつ、9月4日(水)ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟第2民事部(西田隆裕裁判長)の引き続く裁判を迎えた。今回は義務付け・却下処分取り消し訴訟第3次原告の梶川一雄さんと、同じく第4次原告E・Hさん(神戸市在住、2011年死去)お二人の訴えに対する医師証人尋問だ。2009年以来の“義務付け”を求めた訴訟の最後の原告となる。原告はお二人ともすでに他界されていてご家族が承継している裁判であり、そのこと自体が原爆症認定裁判の今日の深刻さを表している。証言される医師は大阪・西淀病院副院長の穐久英明医師。今年3月7日の第7民事部裁判に続く証言となる。

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13:30開廷。穐久医師の宣誓に続いて、原告梶川さん担当の塩見卓也弁護士による主尋問が始められていった。梶川さんについては6月12日(水)、奥さんの博子さんの証人尋問が行われており、その際に梶川さんの被爆状況、戦後の健康状況は詳しく証言されている(2013年6月20日「被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟傍聴記⑧」)。今回もその博子さんの姿は傍聴席にあった。梶川さんは直爆も入市も救護も三重にも被爆された人だが特に100時間以内・2キロ以内入市はより深刻な被爆状況であり、心筋梗塞と白内障が認定申請疾患だ。8月2日判決に従えば真っ先に認定されてしかるべきなのに、と思いながら証言を聞いていく。

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被告国側は、梶川さんの心筋梗塞は喫煙と高脂血症など他因子に原因があると主張しており、今回の主尋問はその主張の誤りを医師の立場から実証的に正すことに重点が置かれた。梶川さんの最初の心筋梗塞発症は1986年で左冠動脈手術をしている。その際それまで1日20本程度あった喫煙習慣もきっぱりと止めた。8年後、今度は当初は問題なかった右冠動脈にも狭窄が発見され再び手術することになった。禁煙後8年以上が経過してなお発症した狭窄に喫煙の影響はあり得ず、国の主張に根拠のないことが明らかにされる。国側のもう一つの主張高脂血症についても根拠のないことが証明された。梶川さんの検査データによると高脂血症が心筋梗塞の最も誘因となるLDLコレステロール値はまったく問題ない水準だ。国側のHDLコレステロール値が低いとする主張も、梶川さんの心筋梗塞が放射線に起因することを認める根拠にこそなれ、それを否定する根拠にはならない、と断言された。

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もう一人の原告E・Hさんについての医師証言は担当の坂本知可弁護士に変わって主尋問が行われた。E・Hさんは21歳の時、長崎の爆心地から3.2キロメートルの距離で被爆。学徒動員で三菱造船所に派遣され、関連事務所で仕事をしている最中だった。原爆投下直後から友人捜索のため浦上方面にも立ち入っている。戦後、数々の疾病に見舞われた。2001年(平成13年)右腎臓に癌が発見され摘出手術、その後慢性腎不全になり経過観察と再発防止治療を続けてきた。申請疾患は腎臓がんと慢性心不全だ。2008年からの新しい審査方針なら何の問題もなく認定されているはずのものだ。尋問や裁判後の報告集会などによるとE・Hさんは2008年(平成20年)認定申請、2010年(平成22年)却下処分、同年提訴、そして一昨年2011年(平成23年)判決を聞くことなく帰らぬ人となられた。
E・Hさんの申請疾患の放射線起因性については争う余地はなく、却下処分理由が要医療性の否定にあって、主尋問もそのことの反論に重点を置いて展開された。高齢であるため腎臓がんの再発率が高くなる可能性があったこと、再発・転移すれば生存率は著しく低下するため長期的な経過観察が極めて重要な意味を持っていたこと、片方腎臓の根治的摘出は当然のことながら長期的に見れば腎機能低下をもたらし慢性腎不全に至ること、また特に被爆者の場合多重がん発症の予防も必要とされることが説明され、要医療性が証明されていった。慢性腎不全患者にとって血圧管理は非常に重要なことであり、そのために処方されていた降圧剤も要医療性の証しであると証言された。
被告国側の穐久医師に対する反対尋問の中で、「0.5グレイ以下の線量でも放射線による発症と関係あると思うのか?」、「直接放射線量だけで解析するのは妥当でないと思っているのか?」、「あなたは放射線起因性が否定できない限りはすべて放射線の影響と認めるべきというスタンスなのか?」などという一般論質問が臆面もなく今回も繰り返された。驚くべき認識、質問だと言わざるを得ない。多くの傍聴者が茫然とした思いをもったのではないか。被告国側は代理人含めて8月2日の判決をどう聞いたのか。何も学ぶことはなかったのか。あれだけの明確な判決であったのに、どうして直爆被曝線量だけにこだわった、内部被曝の可能性をあくまで無視する旧態依然たる質問ができるのか、と。
15:45閉廷
16:00から会場を大阪弁護士会館に移して報告集会が開催された。今回はいつもの西晃弁護士に代わって大阪原水協理事長の岩田幸雄さんが司会進行を務められた。
最初に今日二人の原告の医師証言を行われた穐久医師から感想が述べられた。原爆症認定は限定された部分だけを取り出してアレコレ言うのではなく、被爆者の人生全体、発症歴すべてを診る必要がある。そうすれば放射線による影響は明らかなはずだ、とのコメントは説得力があった。傍聴参加された梶川博子さんからもあいさつがなされた。
集会参加者それぞれの感想が語られる中、西弁護士から「法律家としての危機意識をもっと持たなければならない」との発言があった。8月2日判決があっても国は何等行政を改めようとしていない。地裁、高裁レベルの判決は考慮もしないような傲慢な意識、態度があからさまだ。国民の人権を保証する民主主義の根幹に関わる重大な事態だ。そういう強い危機感をもって臨んでいきたい、と。
今回の主尋問を担当した塩見弁護士、坂本弁護士それぞれから尋問のポイントだった点と感想が述べられた。坂本弁護士からは、E・Hさんの医師証言は主治医ではない穐久医師に代わってお願いしたこと、本人がすでに亡くなっていること、そして診療記録が十分には残されていなかったことの3つの難しさを乗り越えての証言だったことが明かされた。そのご苦労へのねぎらいも含めて穐久医師への拍手がもう一度送られた。
弁護団事務局長の愛須勝也弁護士から今後の裁判進行協議の結果について報告された。今回の裁判の傍聴参加は25人程度。あまりにも空席の目立つ法廷だった。こうしたこともあってか第2民事部の以降の医師尋問については大法廷を明け渡し、1007号という通常法廷を使用することが確認されたとのことだ。(本人尋問は引き続き202号法廷)法廷がどこになるかは別にしても、8月2日の全面勝訴にホッと一息ついた気分は早くお終いにし、あらためて多数の傍聴参加で裁判を支え、勝利をめざしていかなければならないことが強調された。



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2013.09.15 Sun l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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