被爆二世の
ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記 ⑥
あらためてヒロシマ・ナガサキの真実を訴えていこう!
大阪地裁第7民事部で郷地医師が終日証言!
 
2013523()
 
ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟は5月16日(木)、大阪地裁第7民事部(田中健治裁判長)において医師証人尋問が行われた。今回証言台に立つのは東神戸診療所所長・郷地秀夫医師で、昨年10月24日の第2民事部での尋問に続く証言だ。今回806号法廷の傍聴席は埋め尽くされ、遅れて来た人は席を見つけるのに苦労するほどの参加だった。開廷に先立って傍聴者に『福島原発から見た広島・長崎原爆』と題した10ページほどのカラーコピー刷り資料が配布された。郷地先生によって作成されたパワーポイントを編集されたもので、「初期放射線と残留放射線、外部被曝と内部被曝、広島原爆と福島原発の比較と相違点」などを分り易く説明した資料だ。昨年10月24日裁判の『傍聴日誌』で「郷地証人の陳述は教室で授業を受けているような感覚だ。残念ながら手元に教科書もなく、黒板やホワイトボードを使った講義でもないため教師の話についていくのが大変ではあったが」と書いたことを思い出した。だからこのような配慮がなされたというわけではあるまいが、配布された資料内容を参考にしながら尋問される箇所も多く、傍聴者は資料を目で追いながら証言を聞くことにもなった。証言の理解を深める上で大いに助けとなるものだった。
11:00開廷。今回も10月24日と同じく主尋問は濱本由弁護士による総論的内容の質問とそれに郷地医師が答える形で進められていった。被告国側の主張はそもそも「原告らの被曝は低線量被曝であり人体への影響は無視してよいほどのもの」という前提に立っている。これに対して郷地医師は、原告らの被曝状況、急性症状の状況から低線量ということはあり得ないと断定し、その上で初期放射線と残留放射線、外部被曝と内部被曝、それらの存在とそれぞれの特性、危険性について解き明かすように証言していった。「初期放射線と残留放射線の時間的区分である1分経過後も、核分裂によってできた放射性物質が崩壊し別の放射性物質に変化しながら放射線を出し続けていく」ことが、配布資料の『核分裂のその後の崩壊過程』図によって説明されていく。被告国側が残留放射線を無視する理由は砂漠での実験データを基に、すなわち核分裂生成物は上昇気流に乗って飛散していくと考えているからだと指摘。広島・長崎は状況がまったく違う。多数の人の住む、川も海も大量の水蒸気もあるところで原子爆弾は炸裂し、大量の残留放射性物質が水蒸気と共に地上に降り注いだことが、これも配布資料の図を参考にしながら説明される。“実験は無人の砂漠で、実践は多数の人々の頭上で”、その対比には水蒸気の有無や自然科学についての説明を超えた、人道上許すことのできない行為を告発するような響きが込められている。
被告国側の内部被曝についての無理解に対して、郷地医師の詳しい証言は続いていく。内部被曝で体内に放射性物質を取り込む3つの経路、内部被曝と外部被曝の人体に及ぼす影響の違い、内部被曝の5つの特徴(①飛程距離の短い放射線の脅威、②半減期の短い放射性物質の大量放射線、③放射性粒子被曝の形態が多いこと、④狭い領域に集中した被曝、⑤長期間に渡る低線量被曝)等。特に放射性粒子被曝の形態については「第4の被曝」とも称してより詳しい解説がなされた。原爆被曝の場合非常に高濃度の放射性粒子が飛散すること、体内に取り込むと内部被曝しながら体内移動すること、そして臓器への沈着もすることなどだ。残留放射線を出す放射性物質は原子雲の形で流れていき、地形、風向き、湿度、天候などに左右され、遠距離にも及び、初期放射線汚染が同心円で拡大していくのとは基本的に異なることが説明された。こうした証言の上で、被曝状況を判断する上で最も重要な点は何かと質問され、郷地医師は、原爆投下後、どこに行ったのか、何を食べ、どのような行動をしたのか、行動経路、行動内容が非常に重要であると、あらためて明言した。
質問は心血管疾患(心筋梗塞、狭心症等)の放射線起因性に移る。そのメカニズムの説明がなされ、放射線に起因する動脈硬化は古くからの医学的な基礎知識であること、放射線影響研究所の疫学調査レポートや論文でも被爆者に心血管疾患の有意に高いことが証明されていることなどが説明された。かっては認められていた閾値もその値は直線的に低下する歴史を辿り今や閾値は実質ゼロであると示唆されていることも説明された。
被告国側の原告らの心血管疾患における放射線起因性を否定する理由には今でも「喫煙」が大きな位置を占めているようで、このことも総論部分の最後の質問項目として取り上げられた。喫煙と放射線とでは疾患への機序が異なること、被爆者は禁煙しても心血管疾患の進行する例は非常に多く放射線被曝こそが主原因であることを示していること、論文でも「喫煙の存在が放射線リスクの評価に殆ど影響していない」と結論付けられていることなどが証言された。
午前中の総論的質問はほぼ1時間、正午に終了した。
13:30再開。午後からは第7民事部において心筋梗塞と狭心症を認定申請疾患としている3人の原告一人ひとりの放射線起因性と要医療性について証言されていった。証人は引き続き郷地医師で、最初に西宮市在住の男性被爆者Mさんについて、担当の濱本弁護士が午前からに引き続いて質問し、証言を求めていった。Mさんは被爆状況から初期放射線も残留放射線も浴びており、外部被曝も内部被曝もしていること、7歳という被爆時年齢が放射線の影響をより強く受けることになっていること、典型的な急性症状を発症していること、40歳台前半で心筋梗塞を発症し以後も長期に渡って治療しているにも関わらず疾患は進行していること等が丁寧に説明され、明らかな放射線起因性と要医療性とが証明された。被告国側は、高血圧、喫煙が発症原因だと反論している。しかし、どうみても高血圧と言うほどの血圧データではないこと、禁煙後もあらたな狭窄が発生して続けている事実がタバコの影響を否定していること、さらには大腸ポリープまで発症していていることが相当量の放射線被曝の事実を一層確かなものにしていることなどが説明され、国側の反論は退けられていった。
二人目は神戸市在住の男性被爆者Mさんで、杉野直子弁護士が尋問を担当した。Mさんの場合も被爆状況、被爆後の行動内容から外部被曝、内部被曝していることは明らかであることが証言され、しかもとんでもないレベルの被曝状況であると強調された。被爆時年齢が15歳であったことも被爆の影響を大きくしていること、急性症状も典型的な原爆被爆による症状であることが説明された。被告国側からは、加齢、高脂血症、喫煙、糖尿病という他の原因が羅列されて反論されている。しかし杉野弁護士によって示される心筋梗塞発症前の総コレストロール値は高脂血症と言われるほどの値ではない、喫煙は総論で述べられたように放射線起因性を妨げるものではない、糖尿病も放射線起因による心筋梗塞を否定する根拠にはならない、むしろ糖尿病発症自体も放射線被曝に起因している可能性がある、と一つひとつ他原因は覆されていった。
最後は神戸市在住の男性被爆者Hさんについての証言で、弁護団長の藤原精吾弁護士が担当した。Hさんの場合、認定申請疾患は狭心症、糖尿病、高血圧症、高脂血症の4つになる。被告国側は申請疾患はいづれも加齢、生活習慣によるものだと放射線起因性を否定している。重大なのはその根拠が1回だけの特定のワンポイントデータを拠り所としていることだ。一度だけのデータで正しい判断、評価などできるはずもなく極めて妥当性に欠けるものだ。藤原弁護士は長期間の複数データを指し示しながら郷地医師の所見を正していく。結果的に血圧も、コレステロール値も、血糖値も問題にするほどの値ではなく、放射線起因性を否定する根拠にはならないことが逆に証明されることになった。加えて、高血圧も、高脂血症も、糖尿病もが放射線被曝によって発症する可能性のあることがここでも説明された。
小休憩を挟んで審理は15:00に再開し、被告国側代理人による反対尋問に移った。尋問の中で特に印象深かったことを一つだけ記しておきたい。被告国側代理人から「糖尿病と放射線の関係」についての証拠書類として提出されている参考文献について質問がなされた。これに対して郷地医師から次のような証言がなされた。現在の糖尿病の学会では放射線の起因性について研究したり発表したりすることには学会権威から大きな圧力がかけられている。やむを得ず小規模の学会でしか論文発表などできないゆがんだ研究環境になっていて、このため発表されている文献を捜すことも容易ではないのが実情だ。しかしやがて大きな流れとなって学会の状況もまともな方向に変えられていくだろう。
学会の詳細などについて私たちは容易に理解することはできない。しかし、かっては否定され軽視され続けてきた研究の歴史を持つ残留放射線や内部被曝の存在と危険性が、今や重大問題として焦点となり、解明、究明が急がれていることを思うと、そこに相通じるものを感じざるを得ない証言だった。
証人尋問は17:00少し前に終了した。平年をかなり上回る外気温の上昇が反映して廷内の気温も高かった。冷房は作動されず換気のみ。代理人席、傍聴席とも超満席で、その熱気にも煽られて参加者にはやや疲れの様子も見えた。でも今日一日最も奮闘され、おそらく疲れも少なくなかったであろうと思うのは郷地先生だ。11:00から17:00まで一人で証言台に立ち続けられた。
今回の郷地証言も私たちにとっては授業料のいらない講義のようなものであった。被曝の真実、認定申請の正当性を明らかにし正しい司法判断を勝ち取っていくだけでなく、核廃絶と恒久平和を実現していくために私たちが知識と力を身に付けていく重要な場でもある。
京都「被爆2世・3世の会」は被爆体験の継承を重要な活動の柱として体験の聞き取り活動を進めている。その際、何を、どう聞き取りしていくか、重点の置き方、“体験”というものをどれだけの広がりで受け止めていけるかは重要なポイントだ。初期放射線被曝だけでなく、外部被曝だけでなく、人生のはるか後年にまで深刻な傷害、影響を及ぼしている放射線の真実と全体像に迫っていかなければならない。すべてのことを直ちに身につけることはとてもできないのが正直なところだが、それでも学ぶことの多い裁判、証言だ。

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17:00過ぎ、会場を弁護士会館に移して報告集会が行われた。最初に郷地先生から感想が次のように語られた。被爆者医療の経験を持って福島原発事故の調査と支援を行ってきたが、そこでは意外にも、あまりにも広島・長崎のことが知られていないことに驚かされた。あらためて広島・長崎のことを知らせていかなければならないという思いを強くしている。原爆のことが見直されるチャンスだとも思う。今度は“福島原発からヒロシマ・ナガサキへ”を訴えていきたい。
次に今日の尋問を担当した弁護士を代表して杉野弁護士から、濱本、杉野、藤原の3人の弁護士と郷地先生とで何度も長時間の相談を行い今日の尋問の準備をしてきたこと、配布資料も用意し、限られた時間内でもしっかりと尋問することができたこと、などの感想が、郷地先生へのお礼の言葉とともに述べられた。
出席されていた原告のMさんからも郷地先生と支援のみなさんへのお礼のあいさつがなされた。
名古屋から神戸に移りこれからノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟を共にとりくんでいくことになった新顔の吉江弁護士が紹介され、ご本人からのあいさつが行われた。
最後に司会の西晃弁護士から6月1日の「近畿訴訟の全面勝利をめざす支援の集い」を必ず成功させようとの訴えと、今後の裁判スケジュールの確認が行われ、17:35集会は終了した。

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2013.06.16 Sun l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top

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