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被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(87)

5月13日、高裁第12民事部が一審判決を破棄して、認定申請以来
           10年の歳月をたたかってきた高橋一有さんに逆転勝訴の判決言い渡し!
2021年5月23日(日)

 一昨年の2019年11月25日に一審で不当な敗訴判決を受け、控訴してたたかってきた高橋一有さん(79歳、兵庫県三木市)が5月13日(木)判決の日を迎えた。コロナの緊急事態宣言下のため今回も事前集会、入廷行進も何もなくそれぞれが直接高裁第74号法廷に集まることになった。15席程度に制限されている傍聴席はすぐに埋まった。2019年以降をふりかえってみると一審で4人の原告が勝訴を勝ち取ってきたが、一方で残念ながら地裁、高裁で延べ6人の原告が敗訴になっている。今回も決して楽観はできない、予断は許さないぞ、という思いで開廷を待った。
 午後1時15分開廷。牧賢二裁判長(高裁第12民事部)から判決の主文が読み上げられた。「一審判決を変更する。(国の)却下処分を取り消す」と私には聞こえた。やった、勝訴だ!思わず拳を握りしめる。弁護団席、傍聴席に、一瞬熱いものが流れた。判決の要旨説明などは一切なく閉廷。みんな晴れ晴れとした表情で、笑顔を交わしながら報告集会会場の弁護士会館へと移動。判決後の旗出しもしないことになっていたが、この日は上々の好天気。「旗出しやればよかったなあ」の声が、ちょっとうらめしっぽく上がった。

 弁護団による判決分析をしばらく待ってから勝利の報告集会が開かれた。最初に愛須勝也弁護団事務局長から判決の要旨と評価について、以下のような報告が行われた。

 高橋さんは4歳の時、8月12日に長崎爆心地から1.2㌔の距離に入市して被爆。申請疾病は心筋梗塞。これまでの原爆症認定訴訟の到達点からすれば勝てるはずの内容だった。地裁第2民事部の三輪方大裁判長が下した判決は、途中までは積み上げられてきた原爆症認定訴訟の判断基準を述べながら、途中からそれまでとはまったく異なる異質な基準を持ち出してきて、結論を請求棄却に導いた。原告の浴びた被ばく線量を具体的・定量的に示すことができないので放射線の影響があったとは言えない、放射線起因性を認めることはできないというもの。聞いたこともない論理で、原爆症認定訴訟の判決の流れに大きなブレーキをかけ、水を差すもの。到底許されない判決だった。
 控訴審では阪南医療生協診療所所長の眞鍋穣先生に詳細な意見書を書いてもらい、証人として採用申請もした。証人申請は却下されたが、その代わりに弁護団は国の主張に対して徹底して反論することを重視し、最終的には二度に渡って反論する機会を得て、それを提出するまでに至った。
 今回の判決は全体でも23ページ、コンパクトなものだったが、その論旨は明快だった。「控訴人が健康に影響を及ぼす程度の線量の被ばくをしたと認められる以上、その放射線被ばく量が具体的・定量的に認定できないことによって上記認定が妨げられるものではない」として、高橋さんがいろいろな状況から被ばくした可能性は明らかであり、具体的・定量的な線量が明らかにならないのは当然であって、それをいちいち立証する必要はない、ということが明確に示された。これだけで勝利の核心になるものだった。
 一審判決は、高橋さんの心筋梗塞発症年齢(好発年齢)、脂質異常症、高血圧症などを取り上げ、これら他原因によって放射線起因性を否定した。今回の高裁判決はその点でも、「これら他の危険因子により、放射線の影響がなくとも当該疾病が発症していたという特段の事情があるとは言い難いから、高橋さんの心筋梗塞は放射線起因性を肯定すべきある」とし、一審判決との大きな違いをハッキリ示した。
 これまで我々が集団訴訟で積み上げてきた心筋梗塞の判決の到達点を、地裁の三輪裁判長によって一度は突き崩されたけど、今回もう一度元に戻すことができた。高裁判決で、厚労省が定める積極的認定基準(心筋梗塞で入市被爆の場合、原爆投下から翌日までに1.2㌔以内入市)を超える範囲での心筋梗塞の原爆症認定を認めたことは、非常に大きな意味がある。これは近畿の裁判だけでなく、全国の原爆症認定に与える影響も非常に大きなものがある。
 判決では、眞鍋先生に書いていただいた意見書の主張、例えば高橋さんの眼球摘出手術などは原因が被ばくによる免疫異常以外考えられないこと等すべて採用された。一方、国の主張はほとんど排除された。
高橋さんの元々の認定申請は2011年(平成23年)だから、今日まで10年を要した。兵庫県三木市に住む高橋さんは裁判所に来るだけで片道2時間以上かかる中をずっとたたかい続けてきた。心筋梗塞を発症した被爆者がここまでやってようやくこの判決を勝ち取ることができた。それは素晴らしいことではあるが、ここまでしないと認定を得ることができないという、認定行政の持つ深刻で大きな問題を示すことでもある。
 国に対しては上告するな、判決を確定させろという運動が当面必要だが、これから認定基準をあらためさせていく運動をすすめていく上でも非常に大きな意味を持つ判決であった。今回非常に大きな意味を持つ判決を得て、私たちも一層強く確信を持つことができた。

 2013年の提訴以来高橋さんを担当し続けてきた小瀧悦子弁護士から感動のあいさつが行われた。まず何より、今日出廷はできなかった高橋一有さんの喜びの声が紹介された。本当は今日はご本人も来たかったらしいが、コロナ感染とご本人の体調を心配して自重していただいたようだ。

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 小瀧弁護士は、負けるはずがないと思っていた一審の判決にびっくりし、同時にどうしてもっとやれなかったのかという悔いと思いを残してきた。その反省を生かしつつ控訴審では、眞鍋先生にも協力いただいて、全力でぶつかり、意見書は2通出してきた。今日はその結果を得られてとても嬉しく思っている、と感想とみなさんへのお礼が述べられた。

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 続いてもう一人の担当、大槻倫子弁護士から感想が述べられた。高裁第12民事部の交代前の裁判長は判決を急ぎたい意向を持っていたが、私たちはそれを蹴って、最後まで主張を尽くすという道を選択してきた。それだけに今日の判決には実はものすごく不安も大きかった。しかし私たちの選択が正しかったことが証明されて本当に良かった。ほっとしたのが正直なところ。絶対に上告させてはいけない。これから2週間、“上告するな”の声を挙げて、国に突き付けていきましょうと呼びかけられた。
大槻弁護士からは、代読によって高橋さんからの以下のコメントが紹介された。

『裁判所が、私の被爆について丁寧に見てくださり、原爆症であると認定してくれたことは、大変うれしく思っています。ただ、私が原爆症認定申請をしてから10年以上経っています。国には、これ以上、私の被爆を否定するようなことはやめてほしいです。』

 勝利のお祝いの花束が用意され、高橋さんに代わって小瀧弁護士が受け取られた。
 みんなもっと勝利の余韻に浸りたい様子ではあったが、コロナ感染に配慮して報告集会はできるだけ短時間とされ、尾藤廣喜弁護団幹事長のあいさつの後、最後に藤原精吾弁護団長のまとめが以下のように述べられて、締めくくられた。
不当な一審判決を破棄させて逆転勝訴判決を勝ち取った。非常に励まされることになった。「司法は生きていた」と語られたことがあるが、私たちも「裁判所は死んでいなかった」と感じることになった。正しい考え方をとれば、原爆症認定は当然なされるべきだったのだ。
 今から15年前、2006年、大阪地裁で9人全員勝訴した時、あれほど嬉しい裁判はなかった。あれから勝利を積み重ねてきたけど、だんだんと被爆者も減り、原告となって訴える人も少なくなってきた。その足元を見るかのように厚労省は悪い基準を押しつけてきた。その歯止めとなってきたのが裁判所だったが、集団訴訟ではなくなってくることにつれて、司法も行政言いなりの判決が出てくるようになった。しかし、悪い判決があっても決して諦めてはならないことを今日の判決は教えてくれた。正しいことを確信をもってすすめていきたい。
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟を勝ち切って、その訴えを基にして日本政府が核兵器禁止条約に参加する大きな流れも作っていきたい。裁判は少なくなっていくが、すべてが終わってしまうまでに、地球上の全人類のためにも、核兵器禁止条約に近づく活動の一環として裁判を頑張っていこう。

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 高橋一有さんについては、国に対して上告をさせない、判決の確定をさせていくことが当面の最重要課題となる。
今年1月14日に控訴審で敗訴となったT・Iさんは最高裁への上告手続きがとられ、係属部が第2小法廷に決まった。
近畿訴訟の次の日程は6月24日(木)。Y・Mさん(故人、食道がん)とO・Hさん(77歳、心筋梗塞)の二人の原告の控訴審(第14民事部)で、眞鍋先生の医師証人尋問が行われる。
 地裁第2民事部の係属で、原爆症認定の更新却下処分の取り消しを求めて争っていた原告のS・Tさんについては、3月、大阪府(実質厚労省)が、判決を待たずに自庁取り消し(却下処分の取り消し)を行って、原爆症認定は継続更新されることが決まった。私たちの運動と、第2民事部の森鍵一裁判長の的確な訴訟指揮の前に、大阪府(実質厚労省)は訴訟継続を断念することになった。もしS・Tさんが提訴していなかったら、S・Tさんの更新申請はそのまま却下され、泣き寝入りせざるを得なかった。したがって、行政による自庁取り消しではあるが実質的な勝利、勝訴であり、目的は達成された。

 
 しかし、行政の姿勢としては重大な問題が残されたままだ。S・Tさんは実際上治療の継続が必要な状態であったにも関わらず、行政は形式的な扱いで切り捨ててしまおうとした。この姿勢を改めさせる必要がある。そのため、弁護団は「二度とこのようなことをするな」という趣旨の申し入れをし、それ対する確かな確約、言質を得た上で、裁判の取り下げをすることにされている。それまでS・Tさんの裁判は形式上は続いている、との報告であった。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
(2021年05月26日(水) 10:00 地裁第2民事部 1007号法廷 S・Tさん弁論)
2021年06月24日(木) 13:30 高裁第14民事部 202号法廷  眞鍋医師の証人尋問
最高裁への上告 第2小法廷に係属        T・Iさん


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2021.05.27 Thu l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top