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被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(81)
高裁第12民事部で地裁第2民事部の不当判決を翻す弁論開始!
最高裁の“被爆者に対する姿勢”を正すため、苑田朔爾さんが上告へ
2020年6月13日(土)

新型コロナウイルス感染防止の緊急事態宣言が解除され、5月末から6月前半にかけてノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の法廷は3週連続で設定された。5月27日(水)は大阪高裁第2民事部苑田朔爾さんの控訴審判決、次週の6月3日(水)は大阪地裁第2民事部でN・Kさんの判決、そして今週6月10日(水)は高橋一有さんの控訴審第1回目の弁論と続いた。

苑田朔爾さんへの不当判決に対しては、こんなに酷い判決をそのまま看過することはできないとして6月5日(金)、上告の手続きがとられた。N・Mさんの勝訴判決については国に控訴させないことが喫緊の課題であり、厚労大臣に対する働きかけが全国に呼び掛けられている。控訴期限は6月17日(水)だが、今日現在控訴手続きはとられていない。

高橋一有さん(79歳、兵庫県三木市、心筋梗塞で認定申請)は、昨年11月22日、地裁第2民事部で却下処分の不当判決を受けた。判決を下した裁判長は先週のN・Kさんの判決も書いた三輪方大裁判長だった。半年の期間を置いてやっと控訴審の最初の弁論機会を迎えることになった。係属の高裁第12民事部の裁判長は、法廷前の掲示板を見ると石井寛明裁判長とあった。なんとなく記憶にある、かなり以前の一審かまたは二審でノーモア・ヒバクシャ訴訟を担当したことのある人ではなかったかと思いつつ、開廷を待った。帰宅して過去の傍聴記を見直してみると、2015年から2016年にかけて高裁第13民事部で6人の被爆者の裁判を担当した人だと分かった。但し、この裁判長の前で弁論が行われたのは3度だけで、4回目からは別の裁判長に代わり、高裁第13民事部の審理はその後2年も続いて、2018年に判決を迎えている。弁論だけであったので石井裁判長の印象は薄く、特別の感想を持つことは何もなかった。ただ、当時、傍聴参加者が次第に少なくなりつつある中で、あくまでも202号大法廷の使用にこだわり続けていたことが思い出に残っている。
今日の会場の74号法廷は今回も傍聴席は3分の1に限定され、わずか13人の席数はただちに埋まった。高橋さんの担当は小瀧悦子弁護士だが、大変力のこもった控訴理由書が提出されていると後刻の報告集会で紹介された。その小瀧弁護士は急に体調を崩されたようで今回は欠席。高橋一有さん本人は出廷を希望されていたようだが、遠距離で、コロナ禍の下、今回は無理をしないでおいた方がいいということで、欠席されることになった。
冒頭、控訴側からの控訴状、控訴理由書、非控訴側の答弁書等の提出が確認されて審理は開始された。控訴側からは眞鍋穣医師の証人申請もされているようだったが、その決定はとりあえずのところ留保された。
この日の口頭意見陳述は愛須勝也弁護団事務局長によって行われた。愛須弁護士は弁論で、一審判決の判断枠組みの誤りと、高橋さんの被曝後の状況についての判断の誤りと、二つに分けて述べ、分かり易くも、厳しく原判決を批判した。
一審判決はまず、「DS02等により算定される被曝線量は、飽くまで一応の目安とするにとどめるのが相当」であるとし、「被爆者の被曝線量を評価するに当たっては、当該被爆者の被爆状況、被曝後の行動・活動の内容、被曝後に生じた症状、健康状態等に照らし、様々な形態での外部被曝及び内部被曝の可能性の有無を十分に検討する必要がある」としている。また申請疾病である心筋梗塞については最新の医学的知見を受け入れ、既に積極的認定疾病に加えられていることも理由に放射線起因性を認めている。ここまではこれまでの原爆症認定集団訴訟の判決で繰り返されてきた判断枠組みと同じことになる。しかし、判決はこれらの到達点を述べながら、高橋さんの心筋梗塞の放射線起因性の具体論になると、突然、浴びた被曝線量を「具体的・定量的に明らかにすることができない」という、まったく異質の基準を持ち出し、高橋さんの浴びた線量は大したことはないとして切り捨ててしまった。
被爆者の浴びた放射線量を定量化するなどできるわけがなく、被爆者に不可能なことを強いるもので、被爆者援護法の趣旨にも真っ向から矛盾し、被爆者が長年の原爆症認定集団訴訟、ノーモア・ヒバクシャ訴訟で勝ち取ってきた判断基準の成果を冒涜するものだ、と愛須弁護士は原判決を厳しく批判した。
高橋さんの一審判決以降4人の原告が同じ地裁第2民事部(同じ裁判長で)判決を受けているが、前段の判断枠組みでは4人とも同じことが述べられている。しかし、具体論になると2人については被曝線量が明らかでないとの理由で請求を棄却し、後の2人については具体的線量が明らかでないのに請求を認めるという、まったく矛盾した判決が行われていることも付言された。
一審判決は、高橋さんの被曝状況について、入市後に爆心地近くで飲食をしたこと、怪我や予防接種でもひどく化膿するようになったこと、結膜炎の悪化から眼球摘出をして失明したことなどのここまでの事実認定は認めている。しかし判決は、化膿がひどくなっていった具体的な状況や失明に至った詳細も明らかでないとして、「放射線被曝の影響で免疫力が落ちたことに起因するものであるとは直ちに認めることはできない」としまっている。
このことについては、免疫アレルギーの専門的知見を持たれている眞鍋穣医師の詳細な意見書が既に提出されている。その意見書の要点に触れながら陳述は続けられた。眞鍋医師によると、高橋さんは被爆した4歳までは元気な子であったにも関わらず、被爆後ひどく化膿するようになったこと、また若くして結膜炎から眼球摘出を受けることになった経過は、細菌感染に対する抵抗力の顕著な低下がなければ考えられないこととされている。高橋さんの免疫力低下は先天的なものではありえず、後天的なものとしか考えられないこと、その原因は原爆放射線の被曝によるものと考えるのが最も妥当だとされている。眞鍋医師の意見のポイントは、高橋さんの症状は被爆後に生じているという点にある。一審判決はその評価を見誤り、症状発生の程度や時期が明らかでないとして、放射線の影響を無視してしまっている、と批判された。
愛須弁護士の陳述は最後に、多くの被爆者が自らの生命をかけて築き上げてきた司法判断の到達点を後退させる原判決を確定させることは認められないと訴え、審理においては眞鍋医師の証人を採用して審理を尽くすよう求めて、閉じられた。
陳述の後、次回期日を9月9日(水)とすることを確認して、閉廷となった。

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今回も大阪弁護士会館に移動して報告集会が行われた。最初に愛須弁護士から、今日の陳述を補足する説明が行われた。
地裁第2民事部、三輪裁判長の判決は高橋さんたちの判決を皮切りに3回行われたが、前段の判断枠組の記述は3回ともまったく同じ文章で、それは見るからにコピペしたものと言わざるを得ない。それが具体論に移ると態度がコロッと変わって、被爆放射線量の推計まで具体的に計算して示しながら、それを前提とした判決にしている。敢えて余計な判断枠組みを滑り込ませ、それを理由に足切りをはかっている。4人の原告の2人には原爆症を認め、2人は却下。どこが違っているのかさっぱり分からない、極めて恣意的な判決だ。要は国が許容する範囲なら認め、それ以外は切り捨てるという、原爆症認定訴訟の歴史と実績を明らかに踏み外している。

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証人申請している眞鍋医師は臨床医師であると同時にアレルギーの研究、専門家でもある。この間の原発事故、原発労働者の問題、チェルノブイリ事故などから、たくさんの医学論文、科学論文が集積されており、白血球の中の好中球異常が免疫力の異常をもたらすことが明らかにされている。眞鍋医師はそれらの研究成果に基づいて、放射線被曝によって免疫機能に異常を来し、被爆者には今日までずーっとそれが続いていることを示されている。高橋さんの被曝後の症状を診ても被爆した後に免疫力が低下してきたことは明らかであり、原因は原爆による被曝以外考えられない。非常に説得力のある意見書となっているようだ、
意見書の内容は必ず裁判所にも伝わるであろう。裁判所は証人の意見を聞かなければ、と思うはずだ。一審判決はきっと見直されるのではないか、という期待と思いが語られた。
その後、現在の近畿訴訟の全体状況が報告され、確認された。

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(支援集会で講演する眞鍋穣医師)

苑田さんの事件は上述のように6月5日(金)上告された。先週判決のあったN・Kさんについては、国に対して上告するなと働きかけ、判決確定を求めている。そして今日の高橋一有さん。その他、近畿訴訟では3人の原告がいずれも控訴審での審理開始の日を待っている。係属部は1人は第6民事部、2人は第14民事部と決まっているが、期日は未定のままだ。
報告集会では藤原精吾弁護団団長から、苑田さんの上告について、その目的、理由が以下のように説明された。

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今年2月25日(火)、最高裁で原爆症認定に関わる不当な判決が下された。被爆者に向き合わない、ただ言葉の解釈だけで要医療性を否定した結論だった。行政のやっていることを追認、追随するだけ、被爆者援護制度の理解もできていない。最高裁の判決とはとても思えないようなずさんな間違いがある、との批判も出されている。
被爆者の問題、被爆被害の問題をもう一度最高裁に考えさせる必要がある。そういう意味で苑田さんの上告をすることにした。これを機会に、最高裁は被爆者問題をもう一度考え直せという運動にしていきたい。現在、『賃金と社会保障』という雑誌で特集号を編集中だ。いかに最高裁判決が間違っているか、そしてそれらがいかに世論は受け入れ難いものであるか、が書かれた特集だ。8月6日前に発行の予定で、是非読んでいただきたい。
報告集会の最後に、尾藤廣喜弁護団幹事長からまとめが行われた。

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苑田さんの事件の上告については弁護団会議の中でも様々な意見が交わされた。事実認定が争点になっているので上告は難しいという意見もあった。しかし、私たちが原爆症認定訴訟を起こしてきた原点は、裁判所は被爆者の被爆の実態をきちんと正確に捉えて、それに基づいて判断し、認定のあり方を考えていかなければならない、というところからだった。小西訴訟以来ずーっと私はたちが主張してきたことだ。小西さんの場合、1.8㌔の被曝で、白血球減少症と肝機能障害が申請疾病だった。当時の基準からするととても認められるようなものではなかった。相談した斎藤紀先生からも、今の基準ではとても認められるものではないと、訴訟については否定的な意見をもらっていた。
しかし、現実に小西さんは白血球減少症が続いており、肝機能障害もあった。この事実から考えて認定されないのは基準自体がおかしいのだと、かなりの議論を行った。斎藤先生もそうかもしれないと言われるようになり、小西さんの症状を自らも分析され、それから見解を改められるようになった。小西さんのために法廷での証言もしていただいた。
医師、科学者は、事実に謙虚でなければならない。被爆者の訴えていること、その事実をどれだけ尊重して被爆の実相を正直に見るかということ。それは裁判所にも当てはまる。苑田さんの判決には微塵もそのような姿勢が見られなかった。「被爆者の言うことは信用できない」という立場に立ち、認定には被曝線量を厳しく考えないといけないとし、何より厚生労働大臣の打ち出した方針には素直に従わなければいけない、といった考え方が随所に見られた。私たちの築いてきた到達点を踏みにじる判決だった。
この判決をこのまま終わらせるわけにはいかないと考えて、上告することを決めた。弁護団はもう一度最高裁にチャレンジする、ということだ。
今日の高裁第12民事部の裁判も同じ立場を求めていかなければならない。本当に被爆者に向き合って、正しい判断は何かを実態から見ていくようにする。
私が水俣病訴訟をやっている時、原田正純医師から教えられたことがある。医者は患者さんから学ぶ、医学は患者さんから学ぶということだ。裁判もそうあるべきだ。この裁判所がきちっと事実を見て判断するように、またさせるようにしていかないといけない。是非とも勝っていきましょう。

 報告集会終了後、関係者の間で、延期になっている「ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の全面勝利をめざすつどい」の開催について話し合った。日程は、会場都合との調整もあり、8月29日(土)と決まった。詳細は追ってお知らせすることになる。



ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
 2020年 8月 29日(土) ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の全面勝利をめざすつどい
2020年 9月 9日(水)14:30 控訴審・高裁第12民事部 74号法廷 高橋さん弁論

 弁論期日未定          控訴審・高裁第 6民事部 81号法廷 T・Iさん弁論
 弁論期日未定          控訴審・高裁第14民事部 73号法廷 Y・M、O・Hさん弁論
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2020.06.13 Sat l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top