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被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(76)
地裁第2民事部の原告7人全員の判決言い渡し日が確定!
審理を急ぐ控訴審の強引な訴訟指揮、それに負けない「公正判決」署名運動を!
2019年10月20日(日)


 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の前回の法廷が7月25日(木)で、それから3ヶ月近い時間を置いてこの秋の闘いが再開された。この間、8月には今年も原水爆禁止世界大会が開催されて来年のNPT再検討会議に向けた運動方針が確認され、9月には核兵器禁止条約を批准する国が32ヵ国に至って条約発効への具体的な展望が切り開かれ、10月には一千万筆を越える「ヒバクシャ国際署名」が国連総会第一委員会に提出されて世界の人々の核廃絶への強い願いが示されてきた。

 近畿訴訟は10月11日(金)、大阪地裁第2民事部(三輪方大裁判長)の原告の一人N・Kさん(女性・79歳・神戸市)の最終弁論が行われた。N・Kさん本人と愛須勝也弁護団事務局長によって最後の意見が述べられた。私はこの日事情があって傍聴出席することができなかったので、お二人の陳述書から訴えの内容を紹介することする。

 N・Kさんは4歳の時長崎で被爆。以来健康とは程遠い人生を歩み続けてきた。幼い頃から貧血や目まいに襲われることが多く、学校の体育の時間はほとんど見学、夜間に呼吸が早くなって起こされることも度々だった。地元では結婚することもできず、20歳で神戸に出てきてその後結婚。長女を出産してからうつ病に襲われるようになり食事もできないほどとなった。それから後も様々な病気に見舞われ、そして乳がんを発症。この乳がんで原爆症認定申請をした。乳がんの後遺症は今も続き、手の浮腫、両足のしびれなどがひどく毎日が辛いものとなっている。原爆がなければ父や兄たちも早く亡くなることはなかった、私の健康な身体で人生は違ったものになっていたはずだ。私の身体が弱いのは原爆のため、私の乳がんは原爆症だと裁判長には認めていただきたいと訴えた。
 N・Kさんは係争中のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の地裁審理の最後の原告となる。愛須弁護士は地裁での審理の最後をまとめる形で最終意見陳述をした。2003年に始まった原爆症認定集団近畿訴訟は合計13の地裁判決、5つの高裁判決、3つの最高裁判決が出されてきた。2009年には「8・6合意」も交わされたが、国の約束破りによって新たな集団訴訟(ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟)が闘われてきた。その新しい集団訴訟も地裁審理は本件が最後となる。全国的にも認定訴訟は終結に向かいつつある。しかし、原爆症をめぐる問題が解決したのかというとそうではない。
 原爆症認定集団訴訟によって認定基準は、入市被爆や直爆距離などにおいては拡大がはかられてきた。その認定基準の拡大を導いたのは原告となって起ちあがった集団訴訟304人、第2の集団訴訟121人の被爆者のみなさんの力、思いだった。しかし、厚労省は積極的認定の対象とならない申請について「総合的に判断する」ことに極めて消極的な態度をとり続け、実際には直爆3.5㌔、入市時間100時間を大きな壁としてしまい、新たな基準を機械的に適用してきた。
 今あらためて被爆者援護法の立法趣旨を想起しなければならない。被爆者の平均年齢は80歳を超え、法廷にすら立てない原告も増えている。若年の被爆者は被爆時の記憶すらもともとない。加齢による記憶の後退、証言者も亡くなり、詳細な被爆の実態の立証を前提とする裁判による解決自体が構造的に困難になりつつある。
 被爆者援護法の立法趣旨と訴訟に立ち上がった被爆者の願いに思いを致し、現状追認することなく、認定行政の改善につながる判決を下されることを切望するとして陳述は締めくくられた。
 N・Kさんへの判決言い渡しは2020年4月10日(金)午後2時から、と言い渡されて第2民事部もすべての弁論が終結となった。

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 これで第2民事部の判決言い渡しの日程はすべて確定。最初の3人は11月22日(金)の午後1時10分から、次の3人が年明け1月31日(金)の午後1時10分から、そしてこの日決まったN・Kさんが4月10日(金)。

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 翌週の10月15日(火)の午後、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の二つの控訴審が連続して開かれた。午後1時30分からは81号法廷で大阪高裁第6民事部(中本敏嗣裁判長)。今年5月23日(木)の地裁の不当判決で敗訴となったT・Iさん(男性・76歳・城陽市)の控訴審、第1回目の弁論。冒頭に原告のT・Iさんや担当弁護士による口頭の意見陳述があるのかと思っていたが、それはなく、いきなり裁判長から双方への質問、問い質しのような形から審理は入っていった。口頭でのやりとりを聞いているだけではよく分からない点もあったが、概ね以下のようなことではないかと理解した。T・Iさんの申請疾病の一つは慢性肝炎だが、国も第一審判決もT・Iさんの疾患は脂肪肝であり、それは慢性肝炎の範疇に含まれないとしている。裁判所が医学的判断をするのは本来なじまないことであり、そもそも、現行の「新しい審査の方針」が2008年に策定された時、慢性肝炎の範囲はどのように議論され策定されていたのか、そのことを国側は明示すべきではないか。控訴人(原告)側には、脂肪肝であってもその発症に放射線起因性を主張するのであればそれは(一審とは異なる)新しい主張となるのではないか、といったような内容であったと思う。
 それぞれに主張、意見を準備していくことが確認され、次回期日は12月24日(火)、次々回期日を2月28日(金)と決められてこの日は閉廷となった。第6民事部のこの裁判長は、一審判決文や控訴理由書、意見書等々をよく読みこなしていて、論点を自分なりに整理して、その線に沿ってテキパキと訴訟を進行させていこうとしている人なのかと思った。
 同じ日、連続して午後2時30分からは隣の82号法廷で高裁第2民事部(田中敦裁判長)。こちらは苑田朔爾さん(77歳・神戸市)の2回目の弁論。1回目の7月25日(木)の時にはパワーポイントを使った意見陳述が行われ、傍聴席からもとても分かりやすいプレゼンだったと好評だった。あの時、本来は2017年8月6日放送のNHKスペシャル『原爆死~ヒロシマ72年目の真実~』というタイトルのDVD上映も計画されていたが、事情があって上映が間に合わなかったとされていた。2回目の今回はこのDVD上映から始まることを期待していたが、残念ながらそうはならなかった。

 法廷は控訴理由書や意見書などの取り扱いを確認した後、いきなり原告側からの名古屋大学の沢田昭二名誉教授の証人採用申請についての判断となった。裁判体協議の結果証人申請は却下された。その後、証人が認められないのなら補充の意見書提出や、それに対する国側の反論の意見書の提出、そしてその提出時期のやりとりとなった。控訴側も被控訴側もそれぞれ十分な時間をとって準備したいと主張したが、これも裁判体協議の結果、控訴人側の意見書提出は12月23日まで、被控訴人側の反論の意見書提出も1月22日までと裁断されてしまった。「控訴手続き以来もう何ヶ月も経っている。いまさら何をもたもたと時間をかける必要があるのか」と言い放たれたような感じだった。そして、次回期日を年明けの1月29日(水)と決め、それも特段の事情が生じない限りこの日を弁論終結とするまで言い切られた。十分な主張、立証、審理よりもはじめにスケジュールありきで、さっさと判決を出してしまいたい、そんな強引さを強く印象付ける訴訟指揮が露わになった。

 二つ連続の法廷の後、まとめて報告集会が開催された。第6民事部も第2民事部も今日は裁判長と双方の代理人のやりとりに終始したため、傍聴席からは分かりにくい法廷となった。このため報告集会ではそれぞれの担当弁護士から今日の法廷のやりとりとその前後のことについて説明されることになった。第6民事部のT・Iさん担当の中道滋弁護士からは、脂肪肝発症にも放射線起因性のあることの証明をもう一度整理して新しい主張として提出していくこと、今日の裁判長はもう一つの申請疾病の糖尿病については一言も触れなかったが、糖尿病の放射線起因性についてもさらに重視して主張していくこと等が説明された。

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 第2民事部の苑田さん担当の濱本由弁護士からは、今日の法廷に入る前から“事前の攻防”のあったことが紹介された。濱本弁護士は前回第1回目と同様にパワーポイントを作成し、それを使った意見陳述を準備して提出、愛須弁護士からもその陳述を強く要請していたが、裁判所はそれを認めないとう事態があった。そして今日の法廷で、証人申請を却下し、補充意見書の提出を急がせ、結審の日まで決めてしまった。とても急いでいる裁判長の意気込みのようなものを感じざるを得ない。こうなった以上、最大限頑張って補充意見書を作成、書面を準備していきたいと決意が表明された。

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藤原精吾弁護団長から今日の二つの法廷を経ての感想が以下のように述べられた。今日の法廷を経て二つのことが明らかになった。一つは集団訴訟が個別訴訟になっていること、二つは被爆者訴訟から医学的訴訟になっているという問題。原爆被爆は70年以上も前のことであり、しかもまだ放射線の人体に与える影響は2~3%、多くても5%程度しか分かっていないのが実態。一般的な因果関係を論じようとすると難しいのは当たり前で、個別訴訟でしかもそれが医学的訴訟となれば主張立証するのは極めて困難なことになる。したがって、今、裁判所のやり方を変えさせていかなければならない。そのためには、外からの要因と内からの要因が必要。外からの要因とは、公正な判決を求める署名運動などを一層強力に推し進めて、原爆症についての社会的認識とアピールを高め、それが裁判官に伝わるようにしていくこと。今最高裁に係争中のノーモア・ヒバクシャ訴訟も、問われているのは要医療性についての判断だが、前提として最高裁が被爆者援護法に基づく被爆者援護の積極的判断を示せば大きな要因となる。内からの要因とは、今裁判所が判断基準にしようとしている「新しい審査の方針」自体が国による政治的判断、政策的判断で決められたものであることを裁判所に理解させること。被爆者援護法の本当の精神に立ち返って、被爆者を救うのか救わないのかを判断することこそが基本であり、合わせて、被爆者が裁判を通じて何を求めているのかを、裁判官に理解させていくことが重要になっている。

 今日も法廷と報告集会にはいつものように第6民事部の原告T・Iさんが出席された。T・Iさんは申請疾病の慢性肝炎、糖尿病以外にも十指に余る疾病に罹ってきた。それらの根本の原因はすべて放射線被爆にあると思っている。真鍋先生に書いていただいた意見書は素直に読めば誰でも理解できることだ。真鍋先生に感謝し、これからも頑張っていきたいと感想と決意が述べられた。
 ノーモア・ヒバクシャ訴訟勝利判決のためにあらためて二つの署名運動が提起され、報告集会参加者全員で確認した。一つは地裁向けでこれから迎える7人の原告の公正な判決を求めるもの。これは11月11日を目途に集約、提出していく。もう一つは2人の控訴審原告の公正な判決を求める高裁向けのもの。また11月22日(金)に迫った地裁第2民事部の3人の原告の判決言い渡し日当日の応援行動も提起され確認された。

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 報告集会は最後に尾藤廣喜弁護団幹事長の要旨以下のようなまとめのあいさつで閉じられた。今日の二つの法廷で裁判長の訴訟指揮の実態がつぶさに明らかになった。両方ともに急いで審理を進めたいというのか特徴で、被爆者の実態をしっかりと理解して判断できるのかどうか大変心配な点だ。特に第2民事部の審理進行には危ういものを感じる。個別の医学論争になれば克明な因果関係の立証を求められそれは不可能なこと。そうではなく被爆者救済の観点から原爆症認定の判決を積み上げてきたのがこれまでの実績。そのことを裁判所がどのように理解し考えているのか。提起されている公正な判決を求める署名運動を積極的に取り組んで世論に訴え、裁判所にもアピールしていこう。ノーモア・ヒバクシャ訴訟もいよいよ原告は少なくなりつつあり、だからこそ今頑張っていこう。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2019年11月22日(水)13:10 地裁第2民事部 1007号法廷
高橋、淡路、Ⅿ・Yさん判決言い渡し
2019年12月24日(火)13:10 高裁第6民事部 81号法廷    T・Iさん弁論
2020年 1月29日(水)14:30 高裁第2民事富 82号法廷   苑田さん最終弁論
2020年 1月31日(金)13:10 地裁第2民事部 1007号法廷
Y・Mさん、O・Hさん、Y・Iさん判決言い渡し
2020年 2月28日(金)13:30 高裁第6民事部 81号法廷    T・Iさん弁論
2020年 4月10日(金)14:00 地裁第2民事部 1007号法廷  N・Kさん判決
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2019.10.23 Wed l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top