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被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(71)
2月28日(金)、第7民事部の二人の原告に判決言い渡し
国の認定基準の誤りを明確にして一人の原告が勝訴!
しかし一人の原告には詳細な被爆状況の立証を課して不当判決!
2019年3月2日(土)

 2019年2月28日(木)、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟第7民事部(松永栄治裁判長)の2人の原告の判決言い渡しの日を迎えた。一人はK・Sさん(男性、92歳、京都市在住、18歳の時8月6日に広島入市、申請疾病は狭心症)、もう一人は苑田朔爾さん(77歳、神戸市在住、3歳の時長崎の爆心地から4.2㌔で直接被爆、15日に爆心地まで入市、申請疾病は前立腺がん)。昼過ぎの12時20分、裁判所前の西天満若松浜公園に集合して冷たい雨の中短時間の判決前集会を開催。その後入廷行進していつもの806号法廷に向かった。K・Sさんは体調がとても悪くて今回も出廷は叶わなかった。苑田さんも現在長崎の病院に入院中だが、今日だけはと病身をおして朝早くから大阪に向かい、判決前集会から姿を見せられた。

事前集会_convert_20190317111218

西_convert_20190317111301

藤原団長_convert_20190317111051

久米_convert_20190317111347
 

入廷_convert_20190317111438  

入廷2_convert_20190317111518

 第7民事部は昨年4月から今の松永裁判長に裁判体が変わり、松永裁判長の下で迎える初めての判決だ。
 K・Sさんは8月6日広島に原爆が投下されたその日に軍隊命令で入市、翌日から原爆ドーム付近など爆心地そのもので1週間近くも救援活動に当たった。申請疾病の狭心症は、昨年1月23日、同じ第7民事部で宮本義光さんが「完勝」と言われたほどの勝訴判決を受け、国は控訴もできなかった。昨年12月14日には東京高裁で山本英典さんが同じく狭心症の勝訴判決を受け確定している。もはや狭心症については司法判断も揺るがないのではないか、と思う。苑田さんは申請疾病は前立腺がんだが、直爆が4.2㌔、入市が6日後の8月15日と国が勝手に決めた積極的認定基準の線引きから外れる。そのため昨年の医師証人尋問では特に残留放射線の危険性、内部被ばくの重大なリスクが詳細に証言され、徹底して主張された。最終意見陳述では原爆投下直後の広島・長崎の惨状を絵や写真をスライドにして映し出し、苑田さんらの被った被害状況をリアルに再現して見せるなどの努力も行われた。
 負けるはずがない、二人とも必ず勝訴だと確信をもって開廷を待った。

旗出し_convert_20190317111600

 午後1時10分開廷。裁判長からただちに主文が読み上げられた。最初のK・Sさんについては「認定申請の却下処分を取り消す」とはっきりと聞きとれた。勝訴だ。続いて苑田さんもと期待して待ったが、しかし「却下処分を取り消す」の言葉は続かなかった。傍聴席の私たちには「請求を棄却する」ともはっきりとは聞きとれなかったのだが、どうも認められなかったようだ、の感触だけが伝わってきた。
 なんでや???の思いを抱きながら法廷を出て、正門前の旗出し場面に足を運んだ。久米弘子弁護士、喜久山大貴弁護士によって掲げられた旗出しは「勝訴」と「厚労省は原爆症認定制度を改めよ」。K・Sさんは勝訴だから「勝訴」の旗出し。しかし「全面勝訴」とはならなかった。旗出しと共に挙げるシュプレヒコールも満面の笑みを伴ってとはならず、複雑な思いを噛みしめながらの唱和となってしまった。

愛須_convert_20190317112358

 近くの中之島中央公会堂会議室に会場を移して午後2時から報告集会が始められた。判決文の分析途中から会場にかけつけた愛須勝也弁護団事務局長によってまず、判決内容についての報告が以下のように行われた。
 K・Sさんは8月6日の夜に広島入市、翌日から爆心地周辺で1週間救護に当たり非常に濃厚な被ばくをしたことは明らかだった。もしこれで認定されなければ入市被爆者や救護被爆者は一人も認定されないことになってしまう。申請疾病の狭心症についても国の主張はすべて退けられて放射線起因性が認められた。国は狭心症についてはこれまで徹底して争う姿勢をとってきて、最近は同じ狭心症でも安定狭心症と不安定狭心症とがあるなどとして、安定狭心症には放射線被ばくとの関連性はないと主張していた。K・Sさんは医師意見書で安定狭心症の方だとされていた。しかし判決はそもそも狭心症を安定狭心症と不安定狭心症とに区別すること自体に意味がないとして国の主張を退けた。したがって狭心症も心筋梗塞と同じ機序で発症するのであり、積極的認定疾病と同じように扱うべきだとの判決だった。脂質異常症や高血糖、加齢といった他原因も国は主張していたが、これらもすべて排斥された。12月の東京高裁判決に対して国は上告もできなかった。狭心症についてはもう争いようがない。国の認定基準を変えざるを得ない=狭心症も積極的認定疾病の範囲に加えなければならない、そのような積極的側面をもった判決だった。
 一方の苑田さんに対する判決では、一般論としての残留放射線や内部被ばくの健康障害に及ぶ機序、影響、可能性は認めた。しかし苑田さんの被爆状況は、4.2㌔の距離での直接被爆であり、6日後の8月15日に爆心地を2時間程度通過したに過ぎないとされ、初期放射線による被ばく線量は無視しうる程度に僅少、残留放射線による被ばく影響は限定的なものに止まるとされた。健康影響を及ぼすほどの相当程度の被ばくをしたと認めるにはなお合理的な疑いが残るという判決だ。苑田さんは3歳の時の被爆だから当然本人の記憶はない。急性症状も母親から聞いたものだ。被爆した後の行動についても詳細な供述、証言はできない。より高線量の放射線を浴びたという事実認定はできないから認められないというわけだが、とても納得できる判決ではない。従来の判決では多少立証の不十分さを残すことはあっても勝つことはできていた。しかし今回はそうはならなかった。あらためて今回の判決の詳細な分析が必要となっている。
 安倍首相は先日の国会答弁で原爆症認定制度・基準を変えるつもりはなく、裁判の判決にはきちんと対応していくと強弁した。あくまで訴訟を前提とした考え方だ。裁判できる人は認定され、できない人は泣き寝入りするしかない不公平行政を常態化させるものだ。被爆者の高齢化の進行は被爆状況の証明・証言をますます難しくしていく。認定申請したくてもできない人が増えていく。こうした認定制度の現状を改革していくために、今回の判決もこのまま終わらすわけにはいかない。控訴して、高裁で何としてもひっくり返していこう。勝訴したK・Sさんは92歳の高齢だ。国に対しては控訴するなと働きかけ、今日の判決を確定していくことが必要だ。

和田_convert_20190317112107

 愛須弁護士の説明の後で原告団・弁護団・支援ネットワーク連名の声明が紹介され、和田信也弁護士によって読み上げられた。内容の多くは愛須弁護士の説明と重なるが、原告2名の内1名が敗訴という判決ではあっても全体としては被爆者の実態に即して原爆症認定行政を進めるべきことを示した判決で、有意義なものであると強調された。そして、国に対して3つのことを求めた。①国は「新しい審査の方針」の誤りを認めて、変更し、全原告を救済すること、②被爆者援護法と原爆症認定の在り方の抜本的改革をすること、③核兵器禁止条約に加入して、核兵器廃絶国際運動の先頭に立つこと。

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 記者会見などを終えて途中からに報告集会に参加してきた弁護士、原告の苑田さんから挨拶と報告が行われた。苑田さんを担当してきた中道滋弁護士からは残念で悔しい、という思いと共に控訴審に向けて何としても頑張りたいとの決意が表明された。今朝長崎から駆け付けた原告の苑田さんは、判決を聞いてから気落ちはしているが、しかしこのまま引き下がったのでは国の思う壺だ、また気を取り直して頑張っていきたい、アグレッシブルに、ポジプティブに、と自身を奮い立たせるような心情が述べられた。とても気丈で、法廷で証言された時と同じように力強い声だった。聞いている私たちの方が反対に励まされるような挨拶だった。

中道_convert_20190317112144


藤原_convert_20190317112539

 藤原清吾弁護団長からあらためて報告とこれからに向けて提起が行われた。今回の判決は、基本的にはこれまで国がやってきたことを退ける判決だった。安倍首相が現行認定基準は最新のものだなどと言ったりしているが、裁判所はそれを退け、行政は間違っていると判断した。認定制度の改革が必要なことはさらに明らかとなった。
苑田さんの敗訴は被爆の事実について細かい証拠がないからというのが理由だが、これについては、そもそも被爆者に細かな証明を求めること自体が不当なことなのだとしっかり批判、反論しなければならない。この点は今後の大きな争点にしていきたい。私たちは裁判官にもう少しプレッシャーをかけていくことが必要だ。被爆者援護法に基づいて如何にして被爆者を援護していくのか、大きな視点から被爆者に向き合う姿勢を持つよう裁判官に求めていきたい。

花束_convert_20190317112436

 今日の判決の教訓をしっかりと受け止めて、不当な判決は絶対に許さない闘いをすすめていこう。余命も少なくなりつつある被爆者が今もって裁判に訴えている現状を多くの人々にも訴えて、社会的な世論もあらためて盛り上げていこう。
支援ネットワークや報告集会参加者から苑田さんに花束が贈呈され、ねぎらいと激励の拍手が贈られた。今日出廷できなかったK・Sさんには、代理人として久米弁護士に花束が手渡された。K・Sさん宅には判決後すぐに勝訴の知らせが届けられていて、ご家族の喜びの声も紹介された。花束は翌日の3月1日(金)、K・Sさんの自宅に届けられている。

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 最後に尾藤廣喜弁護団幹事長から報告集会のまとめと閉会の挨拶が行われた。この中で特に二つのことが強調された。一つは、国の主張は最近他原因に重きを置くようになっているが、この点について判決は、他原因の要素は極めて限られたもので、放射線の原因こそが基本であることを示した。また他原因と放射線被ばくとが相まって病気が発症した場合であっても原爆症と認めるべきだとした。厚労省のとっている態度、基準は明確に否定されたのだ。一日も早く認定制度を変えなければならない。もう一つは記者会見の席上で、国家賠償が認められないことについてどう思うかと質問された。私は同感だと思った。国はこれだけ裁判で負け続けながら認定基準をあらためず、意図的に切り捨て政策をとり続けている。裁判所はもっと強く認定制度をあらためるよう国に言うべきで、そのためには損害賠償を認めることが重要ではないかと思う。そのように記者には回答した。
被爆者に立証不可能なことを強いるような判決は変えていかなければならない。そのための努力をもっとしていく必要がある。さらに運動を続けていこう。

 午後3時30分に報告集会を終了し、解散となった。朝からの雨は上がっていた。
 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟はこれから最終意見陳述・結審、そして判決言い渡しと、おそらく年内いっぱいまで重要な法廷が続いていく。気を緩めず、今日の判決も重要な教訓として、須頑張っていきたい。

ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2019年4月26日(金)13:10 1007号 地裁第⒉民事部 N・Kさん本人尋問・医師証人尋問
2019年5月15日(水)11:00 1007号 地裁第2民事部 淡路・高橋・M・Yさん最終意見陳述
2019年5月23日(木)13:10 806号 地裁第7民事部 T・Iさん、W・Hさんに判決
2019年6月15日(土)14:00 大商連会館 ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟全面勝利めざすつどい
2019年7月24日(水)14:00 1007号 地裁第2民事部 Y・M、O・H、Y・Iさん最終意見陳述
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2019.03.17 Sun l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top