被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(56)
「2017年ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟全面勝利をめざすつどい」に81人
核兵器禁止条約の採択と共に被爆者救済への道を切り開こう!
2017年6月18日(日)


6月3日(土)、「2017年ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟全面勝利をめざすつどい」が大阪グリーン会館を会場に催された。参加者は81人。
この1年、池田眞規弁護士、伊藤直子さん、肥田舜太郎先生はじめ、多くの原告、被爆者、そしてノーモア・ヒバクシャ訴訟に献身的に関わってこられた方々が永眠された。つどいの冒頭、皆様の在りし日のご活躍を偲んで参加者全員が黙祷を捧げた。

梶本さん_convert_20170618184440

つどいの前半は、「核兵器全面禁止をめざすヒバクシャの闘い」と題して、日本原水協代表理事の高草木博さんによる記念講演が行われた。被爆者が「自らを救うとともに、私たちの体験をとおして人類の危機を救おう」と生涯をかけて訴えてきた核兵器廃絶の課題、それにつながる禁止条約交渉が眼前で進行している今、深い関心と期待をもってお話を聞くことになった。

高草木さん_convert_20170618184508

高草木さんのお話は原爆症認定集団訴訟の頃の思い出から始まる。東京地裁で原告勝利判決を受け、国が控訴した際、高裁判事が、「あれほどのことがあったのだから考慮することはできないのか?」とたしなめたことがある。それはどれほどのことだったのか? それは人間にとってどういう意味を持つのか? どのような態度でそれに臨めばいいのか? という問いかけだった。 原爆症認定訴訟の場でかけられたその言葉は今、核兵器禁止をめぐる国際政治の審議の場でも同じ問いかけがされている。被爆者の72年に及ぶ体験が、国際政治の頂点に置かれ、人類全体の課題にまでされているのだ。高草木さんはまずそのことを強調された。

講演は、1990年代末からの核軍縮・核兵器禁止を求める運動の歴史にふれながら、特に昨年10月の国連総会第一委員会で採択された「核兵器を禁止するための法的拘束力のある文書を交渉する会議を国連主催で開催する決議」について分かりやすく話された。従来の化学兵器禁止条約等とは異なり核兵器禁止条約交渉会議は国連主催で行われること、明確に禁止のための法的拘束力を持たせる文書であること、全加盟国一致のコンセンサスはめざすが最後は多数決で決する(一部の国の拒否権は認めない)ことなど、その内容は画期的で歴史的なものだ。禁止条約実現をめざす国々の熱意が明らかになっている。アメリカを先頭にした核保有国のあわてぶりは相当なものだったようだが、12月の国連総会は賛成113、反対30、棄権13の圧倒的多数(79%)の賛成で提案を採択した。

続いて3月からの交渉会議第一会期の状況、5月22日発表された議長の条約草案の特徴について話された。特徴の第一は、核兵器使用の人道的影響こそが条約の立脚点とされていること、第二は、禁止項目が直接的具体的に明示されたこと、第三は、核兵器使用と実験によって引き起こされた被害と被害者の救済支援が国際政治の責任に掲げられたこと等々が説明された。第一会期では、ラテンアメリカ、アフリカ、東南アジアなど非核兵器地帯を構成する国々の代表がこぞって禁止条約賛成の発言をし、条約に反対する国々がいかに少数派で孤立しているかを際立たせた。核兵器禁止条約をめぐる大勢はもはや誰が見ても明らかであり、この大きな流れを背景に禁止条約の交渉は進められている。そのことがとても重要な点だと強調された。

日本政府は第一会期冒頭に恥ずべき態度をとり交渉会議をボイコットした。理由の一つは、北朝鮮脅威と現実的対応論、もう一つは核保有国との間の「亀裂と分断」論。しかし北東アジアの平和と安全のために何ら責任ある行動をとってこなかった日本政府に北朝鮮脅威論など語る資格はない。また核保有国への説得こそ本来日本政府に求められることなのに、それを放棄してしまった態度には世界が落胆し批判を集中している。

講演は最後に、7月7日の禁止条約交渉会議第二会期末以降の見通しなどに触れながら、圧倒的な国々が条約への調印と批准をし、そして核兵器廃絶へと向かっていくこと、その展望とそこで私たちが果たすべき役割と課題について訴えられた。核兵器の廃絶は全人類の課題、そして今だけでなく後々の将来世代にも関わる課題だ。70億の人々すべてが核兵器は二度と作らない、使わない意志を誓い合わなければならない。その意志を示し合うために「ヒロシマ・ナガサキの被爆者が訴える核兵器廃絶国際署名」の本当の意味、価値があるのではないか、と。
いま、憲法9条、戦争法廃止、沖縄新基地建設阻止、原発、格差など多くの課題で共同が発展し、政治を変える力となって前進している。こうしたとりくみと連帯して、より良く生きようとするすべての人たちの課題と結びついてとりくんでいこう。8月の原水禁世界大会が、歴史的な情勢に応えて、共同の活動を次のステップに押し上げる画期的な大会になるようにしていきたい。是非多くのみなさんに世界大会に参加されるように、と訴えられて講演は締めくくられた。

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今春以来、北朝鮮によるミサイル発射とアメリカ軍による牽制行動が続き北東アジアの「緊張」が高められてきた。そこに世界の安全保障の焦点があるかのような政府の行動と報道が行われ、人々の目も引っ張られてきた。しかし本当の焦点はそんなところにない。アメリカを先頭にした核保有軍事大国の横暴を許さず、核廃絶と非軍事同盟、外交と話し合いで世界の平和と安全を実現していこうとする圧倒的多数の国々の動向にこそ世界の流れ、大道はある。今、世界の民主主義が核保有大国とそれに追随する勢力の横暴を包囲し、追い詰めつつある。今回の講演ではそのことをあらためて学ぶことができた。被爆者と私たち被爆者救済を支援する人々の果たす重要な役割の再認識も含めて。

「勝利をめざすつどい」は続いて「ノーモア・ヒバクシャ訴訟の到達点と課題」と題した愛須勝也弁護団事務局長の報告に移った。ノーモア・ヒバクシャ訴訟は現在、係争中の原告数が全国で60人(3地裁、3高裁)。内24人の原告(2地裁、3高裁)の年内中結審が確定している。さらに15人の原告(1高裁、1地裁)も年内結審の可能性があり、全国で結審、判決が集中する大きな山場を迎えている。高齢化の進む被爆者は新規提訴する例も極めて少なくなっており、今闘っている訴訟を勝ち切らなければ、厚生労働省の狙う「被爆者が死に絶えるのを待つ」状況になりかねない事態に直面している。

愛須(集会)_convert_20170618184608

これから続く法廷はすべて傍聴席をいっぱいにしていこう。必ず正しい判決を勝ち取り、その勝訴判決を力にして厚労省に認定行政の改革を迫っていこう。最終的には日本被団協提言の、認定制度ではなく被爆者全員に保障される制度に改めていく、これが目標だ。そしてそこに到る過程でも、心筋梗塞や甲状腺機能低下症など個別疾病ごとの認定基準を被爆の実態に見合ったものに変えていくとりくみがますます重要になる。
近畿訴訟は、集団訴訟以来被爆者だけの闘いにしない、被爆者を多くの人たちが支える形でとりくんできたのが特徴だ。このとりくみ方をさらに前進させ、より多くのみなさんの参加でこれからの訴訟も闘い抜いていこうと訴えられた。

講演と報告の後は文化行事として、シンガー・ソングライター川口真由美さんによる歌のプログラムがあり、全員でひと時を楽しんだ。川口真由美さんの圧倒的歌声は被爆者と参加者を心の底から励まし勇気づけるものだった。

まゆみさん_convert_20170618184725

この日出席された原告のみなさんは5人で、一人ひとりの挨拶の後花束を贈呈して激励した。ある原告からは「最高裁に上告することになっても最後まで頑張る」との決意表明があり、その強い気持ちに拍手が送られた。

花束贈呈_convert_20170618184655

最後に西晃弁護士による閉会あいさつと、下記の3つの行動提起があり、全員で確認して、この日の「つどい」を閉会した。
① 引き続き傍聴支援のとりくみを強化し、7月13日結審を迎える高裁第13民事部判決勝利に向けた要請署名のとりくみを強めよう。
② 原爆症認定審査基準を今後裁判で争う必要のない状態(8・6確認)までにすることを今一度確認し、当初の運動の原点に立ち返って認定基準の抜本的改定を求めていこう。
③ 核兵器廃絶と脱原発社会の実現に向けて、「ヒバクシャ国際署名」の推進、2017年世界大会の成功、核兵器禁止条約採択に向けて全力を尽くそう。

司会者_convert_20170618184745

6月15日(木)早朝、天下の悪法共謀罪法案が自民、公明、維新の会によって強行採決された。平然と嘘と隠ぺいを繰り返し、良心の欠片も見せることなく民主主義を破壊しての前代未聞の強行だった。怒りを通り越して、私たちのこれからの社会はどう律せられていくのだろうかと、不安と焦燥にかられながら、この日の法廷、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟大阪地裁第2民事部の1007号法廷に向かった。

第2民事部は今年3月以来の法廷となる。今回から裁判所体制が変わり、裁判長には新しく三輪方大裁判長が就かれた。したがってこの日の法廷は弁論の更新で、愛須勝也弁護団事務局長が意見陳述を行った。

愛須_convert_20170618184840

小西さん、松谷さんなど個別訴訟に始まる原爆症認定の訴訟の歴史は私たちも過去何度か法廷で聞いてきたが、今回はいつも以上に力のこもった、しっかりと時間をかけての陳述だったような印象を受けた。
松谷訴訟において最高裁は、最終的に福岡高裁勝訴判決を維持し、実質的に被爆者の立証責任を軽減する結論を下した。それは被爆者を救済しようとする最高裁の固い決意を伺わせるものだった。しかし国、厚生労働省はその後最高裁で勝利した松谷さんさえ救済されない認定基準を策定したため、全国の被爆者は集団認定申請、集団提訴という原爆症認定集団訴訟によって被爆者救済をはかることになった。2003年から2011年に及ぶ集団訴訟は合計30回の判決の内、1回を除く全国すべての判決で松谷最高裁判決の考え方に立脚して放射線起因性を認め、被爆者救済の判断を下してきた。その結果、2009年当時の麻生総理との間で「8・6合意」が交わされ、「今後は訴訟の場で争う必要のないよう定期協議の場を通じて解決を図る」ことが約束された。しかし厚生労働省はこの約束を反故にして、2013年12月「新しい審査の基準」を強行策定し、以後も多数の却下処分を続けてきた。却下処分に不服のある被爆者はその後も訴訟を強いられることになった。被爆者は第2の集団訴訟とでもいうべき「ノーモア・ヒバクシャ訴訟」を提訴し、全国の原告数は121人にもなった。ノーモア・ヒバクシャ訴訟においても各地で原告勝訴判決が続き、国の現行審査基準が不十分なものであることが繰り返し明らかにされている。
愛須弁護士は要旨以上のような原爆症認定訴訟の経緯について述べた後、被爆者援護法前文の全文を読み上げ、法の趣旨に立脚した判断を下すよう訴えた。現行被爆者援護法が制定されたのは1994年。あれから23年も経過し被爆者の高齢化はさらに進行している。法廷に立てない原告も増え、係争中に他界される原告も相次ぎ、記憶の減退や証拠の散逸で立証上の制約も拡大している。一審で勝訴しても無情な控訴により最終的に認定証書を手にすることなく亡くなる原告もある。被爆者にはもはや時間はない。一刻も早く被爆者救済の判決を下されるよう強く求めて陳述は締めくくられた。

閉廷後の報告集会では、新しく就任された裁判長とのやりとりや、今日の法廷についての簡単なふりかえりが報告された後、やはり今朝の共謀罪法案強行採決に対する怒りを噴き出し合う機会にもなった。尾藤廣喜弁護団幹事長が最後にまとめるように以下のあいさつを述べられた。

尾藤先生1_convert_20170618184901

共謀罪には全国の弁護士が強く反対してきた。戦前は弁護士活動さえも治安維持法によって逮捕される、そういう経験をしてきた先輩弁護士はたくさんいて、共謀罪はその治安維持法に道を開くものだからだ。これまでの刑法の考え方を根本から覆すものであり、人権を守る立場から絶対に許すことのできない法律だ。成立したからといって決して諦めてはならない。法の濫用を許さないよう、人権侵害が起きないようとりくみと対策を強めていくことが必要となる。そして何よりこれからは法律の廃止をめざしていかなければならない。
安倍政治の問題は共謀罪の問題に止まらない。特に社会保障の改悪は極めて深刻な事態を迎えようとしている。その社会保障大改悪の一環に被爆者切り捨てもある。被害者、被爆者、社会的弱者に寄り添う政治を実現するため、大きな変革の潮流を作り出していくことが本当に求められている。核兵器禁止条約交渉会議をボイコットするような政府も許してはならない。政治の流れを転換していく、大きな世論の輪を作り出していこう。その中で被爆者の問題もとりくんでいこう。

この日は国連の核兵器禁止条約交渉会議第2会期開会の日でもあった。報告集会では交渉会議成功を後押しするニューヨーク行動に日本から56人の代表団が旅立ったことも紹介された。次回法廷の7月13日(木)報告集会では核兵器禁止条約採択のビッグニュースが届いていることをみんなが期待している。

尚第2民事部の次回以降の日程は次のように決められた。次回は9月15日(金)午後3時から、次々回は11月20日(月)午後3時から。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2017年 7月13日(木) 11:00 高裁C 第13民事部 202号 結審(原告6人)
2017年 7月14日(金) 11:00 地裁 第7民事部 806号 1人結審の予定
2017年 9月14日(木) 11:00 地裁 第7民事部 806号 弁論
2017年 9月15日(金) 15:00 地裁 第2民事部 1007号 弁論
2017年11月20日(月) 15:00 地裁 第2民事部 1007号 弁論
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2017.06.18 Sun l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top