被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(55)
結審を前にした死去、新たな病気の発症等 深刻さを増す被爆者の実態
裁判で争う必要のない救済制度が本当に求められている!
2017年5月14日(日)

 2ヶ月ぶりとなるノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の法廷が5月11日(木)と12日(金)連続して開かれた。
 11日は大阪高裁第13民事部(高橋譲裁判長)の弁論期日だ。この日は冒頭裁判所の構成が変わったことが報告され、それに伴う弁論の更新がまず確認された。変わったのは右陪席の裁判官。後の報告集会で紹介されたところによると、新しく就任されたのは昨年3月大津地裁で高浜原発3、4号機の運転差し止め仮処分決定を下した山本善彦裁判官であるとのこと。原発の安全性の証明は尽くされておらず、地震・津波対策や避難計画も不十分、住民の人格権侵害の恐れがあるとした画期的な司法判断であった。この決定は今年の3月大阪高裁で取り消されることにはなるが、国や電力会社の意向におもねることなく、あくまで住民側の立場に立って下された勇気ある決定だった。全原発の速やかな廃炉・廃棄と再生エネルギーへの転換を求める人々を力強く励ますもので、“司法は生きている!”と多くの人々が評価した。原爆症認定訴訟においても、被爆者に寄り添った正当な判決に力を尽くしていただきたいと期待を大きくする。

 高裁第13民事部で争われている控訴審Cグループ(一審原告6人)の結審はすでに7月13日(木)と決められていて、この日は最終準備書面提出に向けた原告・被告双方の予定の確認が主な手続きであった。この中で2人の原告の追加準備書面と証拠書類の提出が明らかにされた。一人は川上博夫さん。川上さんの申請疾病は甲状腺機能低下症だが、あらたに皮膚がんも発症されておりそのことの訴えと資料が提出されている。もう一人の柴田幸枝さんも同様に申請疾病の甲状腺機能低下症に加えて最近胃がんの発症も発見された。これについても準備書面と証拠書類を提出することが示された。いずれも放射線起因性の何よりの証明であり、被爆者は裁判に提訴した後も病態の深刻さを増して苦しんでいることを訴えるものだ。裁判長からも「柴田さんも大変ですね」の一言がかけられ、法廷内のみんなはその言葉を印象深く聞いた。
 報告集会では結審を前にした最近の状況が簡潔に報告された。控訴審Cグループの原告の内3人が甲状腺機能低下症で一審ではその3人とも勝訴(国側敗訴)した。このため国側は甲状腺機能低下症の判決を巻き返すためターゲットを大阪高裁に絞り、国の意見を代弁する「専門家」の意見書を提出したり、紫芝(ししば)良昌医師、永山雄二医師などの「専門家」証人尋問を申請してきた。しかし裁判所は証人申請をことごとく却下、訴訟は書類だけの審査で進められてきた。国はこの期に及んでも「専門家」意見書に寄りかかった悪あがきの意見書を作成し提出している。これに対しては最終準備書面で反論を加えていく、との説明だった。

和田弁護士_convert_20170521105049

 7月13日(木)の最終弁論ではあらためて、広島・長崎の被爆の実相を映像や写真などを使ってビジュアルに明らかにしていく予定であることも披露された。そのために陳述時間も30分確保される。書面だけでなく目で見て鮮明に理解できるよう、最新の映像技術も駆使したものになるようだ。弁護団の中に和田信也弁護士などによるプロジェクトチームが編成されて準備が進められている。被爆の実態をよりリアルに理解し、それを踏まえた判決がなされるよう求めていくとりくみだ。こうした試みにも応えて、7月13日は202号大法廷を傍聴者でいっぱいにしていきたい。
 その他2ヶ月ぶりの報告集会では各地、各人からの報告、紹介が相次いだ。
 愛須勝也弁護団事務局長からは5月7日に行われた『肥田舜太郎先生を偲ぶ会』の様子が報告された。この間、池田眞規弁護士、伊藤直子さん、肥田舜太郎先生と、原爆症認定訴訟の初期からの運動を大きく支えて来られたみなさんを相次いで失い、その悲しみは大きい。しかし肥田先生から多くの人々が核兵器廃絶運動のバトンを受け継いできた。これからも遺志を受け継いで頑張っていこうと、偲ぶ会はそのための誓いの場にもなったようだ。

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 京都からは、控訴審Cグループの原告の一人原野宣弘さんが、結審、判決言い渡しを前にして亡くなられたことが報告された。裁判はご遺族によって承継されていくことになる。原野さんは自らの機能障害克服のためにリハビリを兼ねてたくさんの絵を描かれていた。原爆の残酷さを告発し、平和を希求し、母親と兄弟達への深い愛をテーマにした作品が多く、法廷の意見陳述の場面でも紹介されてきた。ノーモア・ヒバクシャ訴訟の勝利と、被爆者の完全救済、核兵器廃絶に少しでも貢献できるよう、絵に託された原野さんの思いを披露する絵画展の開催を計画中であることが紹介された。
 京都ではまた、かって原爆症認定集団訴訟の原告として闘われた寺山忠義好さんの描かれた絵本『こぎゃんことがあってよかとか』の原画が長崎原爆資料館に寄贈されたことも紹介された。
 尾藤廣喜弁護団幹事長のまとめでこの日の報告集会を閉じた。高裁になるとどうしても原告本人の思いを直接聞く機会が少なくなる。被爆の実態というものに触れる機会も薄れてきていた。こうした事情を変えていくため、今回最終弁論で特別のチームも編成して眼で見てもらえる映像、画像の陳述を用意することにした。池田弁護士、伊藤さん、肥田先生の思いを受け継ぎながら、みんなの声を届けて訴訟に勝利して行こう。

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 6月3日は『ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の全面勝利をめざすつどい』が開催される。この日までに高裁宛公正判決要請署名をたくさん集めて持ち寄ること、署名は7月13日の最終弁論の日に提出することもあわせて確認された。

 翌日の5月12日(金)は大阪地裁第7民事部(山田明裁判長)の弁論が行われた。第7民事部は5人の原告が係争中だが、まず今後の裁判の進め方について双方の予定と確認が行われた。その上で今回は諸富健弁護士による原告K・Sさん(90歳、京都市在住)について、要旨以下のような口頭意見陳述が行われた。
 K・Sさんは18歳の時所属する軍隊の命令で8月6日当日から広島市内に入り、11日までの6日間
市内中心部で救援活動に従事した。K・Sさんは40歳の時両目白内障を発症し、以降腹部の大動脈瘤、狭心症など様々な病気に見舞われてきた。平成22年に狭心症のため経皮的冠動脈ステント留置手術を受けている。原爆症認定申請疾病はこの狭心症だ。
狭心症は心筋梗塞と主要な原因が同じであり、これまでの同じような原爆症認定訴訟でも狭心症と心筋梗塞とは同じ機序で発症するということで放射線起因性は認められてきている。K・Sさんの場合も同様に、本来であれば積極的認定の対象範囲となるはずだ。しかし、国は総合的に検討した結果と述べるだけで具体的な理由を示すことなく却下した。狭心症という病名だけで機械的な線引きをして安易に切り捨てたのではないかと思われ、国の姿勢に怒りを禁じえない。
 K・Sさんの訴訟の審理に入ってから国は、狭心症には安定狭心症と不安定狭心症という区別のあり、K・Sさんの場合は安定狭心症だから放射線起因性は認められないのだと主張をしてきた。しかし、安定狭心症と不安定狭心症とを区別するこのような国の主張はごく最近持ち出されてきたもので、14年間にも及ぶ原爆症認定訴訟の歴史の中で過去このような主張が国からなされたことは一度もなかった。今さらこのような主張をするということは、K・Sさんの申請却下を正当化するためのなりふりかまわぬ態度と言わざるを得ない。その他国は相変わらず他原因を持ち出して言い争っているが、その実態はそれほど高くもない高コレステロール血症や高血糖、さらには加齢という、重箱の隅をつつくようなものばかりだ。
 K・Sさんは90歳。本人尋問にもしっかりと臨む予定はされていたが、今は入院を余儀なくされその見通しも立たなくなっている。国は高齢のK・Sさんをいつまで苦しめるつもりか。余生を安らかに過ごしてもらうためにも、速やかに自庁取り消しをして原爆症認定をすべきだ。被爆者の命あるうちに問題解決するよう、国の原爆症認定制度の抜本的改革を強く求める。

 報告集会では諸富弁護士に代わって久米弘子弁護士から意見書の内容、国の狭心症についての主張、K・Sさんの状況などについてより詳しい報告がなされた。K・Sさんの状態は当初の見込みより深刻で、次回期日を待たないと本人尋問の予定が立てられないとのことであった。

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 前日とこの日の2日連続の法廷とその後の報告集会で、高齢化する被爆者の深刻な実態があらためて浮き上がってきた。判決を前に亡くなられた被爆者、当初の申請疾病に加えて新たながんの発症があって追加の意見陳述を出された人、そして出廷の見通しも立たなくなっている原告と。裁判で争わないと解決できないような実態が許されるのか、今のような申請をして認定をするという制度でいいのか、被爆者の救済の在り方が根本的に問われている。早期に、政府の責任で被爆の実態に見合った救済制度を実現させていかなければならない。そのためにも差し迫った控訴審Cグループで全員の勝利を勝ち取っていくことがどうしても必要だ。以上のような尾藤弁護団幹事長のまとめを参加者全員で確認した。
 6月3日の『ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟の全面勝利をめざすつどい』をたくさんの人の参加で必ず成功させようと呼びかけられた。当日は、日本原水協代表理事の高草木博さんの記念講演「核兵器全面禁止をめざすヒバクシャの闘い」を聞いて学ぶ。愛須弁護団事務局長から「裁判の経過と勝利への展望」の報告が行われる。そしてシンガー・ソングライター川口真由美さんによる歌と演奏も予定されている。楽しくも充実した一日とし、勝利への力を培っていきたい。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2017年 6月 3日(土) 14:00 近畿訴訟勝利をめざすつどい 大阪グリーン会館
2017年 6月15日(木) 15:00 地裁 第2民事部 1007号 弁論(原告7人)
2017年 7月13日(木) 11:00 高裁C 第13民事部 202号 結審(原告6人)
2017年 7月14日(金) 11:00 地裁 第7民事部 806号 1人結審の予定
2017年 9月14日(木) 11:00 地裁 第7民事部 806号 弁論

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2017.05.21 Sun l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top