被爆二世のノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟・裁判傍聴記(53)
「論文執筆者が自らの論文を貶めて意見書を書く」卑劣なやり方を糾弾!
福島第一原発事故から7年目の日を迎えて!
2017年3月11日(土)


 ノーモア・ヒバクシャ訴訟で争われている心筋梗塞、甲状腺疾患等の非ガン疾患の放射線起因性は、地裁ではすでに数多くの起因性を認める判決が下され原告勝訴を積み重ねてきている。それにも関わらず国は依然として争いを続け、控訴審において逆転判決に持ち込もうとする姑息な手口をとってきている。放射線起因性を認める判決の根拠の一つに採用された論文に対して、論文の執筆者に「自分の論文は放射線起因性の根拠にはならない、判決は誤りだ」と主張させ、国の求めに応じて自らの論文の価値を否定する意見書を提出させる、という卑劣なやり口で、特に控訴審において横行している。弁護団は看過できない事態だとして、3月7日(火)、ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟控訴審Cグループ(大阪高裁第13民事部・高橋譲裁判長)において、このことを徹底して糾弾するため、尾藤廣喜弁護団幹事長が意見陳述に立った。

 尾藤弁護士が今回の陳述で批判対象として取り上げたのは甲状腺疾患の専門家とされる永山雄二医師の意見書だ。永山医師は慢性甲状腺炎(橋本病)と放射線被曝との関係について述べた自らの論文の評価を自ら貶める内容で意見書を提出している。具体的には、マウスを使った動物実験は特殊なマウスに特定の条件下で放射線照射した実験だったとか、機序(メカニズム)を解析するために行った実験では積極的な結果は得られていないとか、そしてマウスを使った実験結果がヒトに対しても同様に起こるとは言えないなどと述べている。もともと起因性を認めた判決は永山論文だけを根拠にしているのではなく、数々の調査データ、研究結果に基づいて行われているのだが、永山意見書は動物実験の目的、実験計画の検討、その意義などに全く触れることなくそれらを無視して、自己の実験を意図的に貶めることだけを目的に書かれたものだ、と尾藤弁護士は厳しく批判した。

 永山意見書の問題をよりリアルに解き明かすために尾藤弁護士は、薬害スモンの原因となった「キノホルム」についての動物実験に対するチバガイキー社(以下「チバ社」)の応答実例を紹介した。尾藤弁護士はかって薬害スモン訴訟の事件を担当した弁護士で、その経験、蓄積が縦横に生かされた陳述のように見えた。尾藤弁護士の陳述を要約すると次のようになる。
1962年、スイスの獣医ハンガルトナーがエンテロヴィオフォルム(チバ社の開発したキノフォルム)投与で異常を発症した犬についてチバ社に問い合わせをした。それに対してチバ社は投与量の問題だとか食餌アレルギーによるものだと誤魔化して回答し、ヒトに対する投与については何の対応もしなかった。一方でチバ社は獣医の間に回状をまわし、エンテロヴィオフォルムはヒトのために開発されたものなので、小動物には投与しないようにと「珍妙な」警告をして事態収拾をはかろうとした。つまり犬への投与実験によって重篤な副作用結果があっても、それはヒトには当てはまらないという詭弁を使って副作用を無視し続けた。もし犬に対する投与結果をヒトに当てはめて規制を行っていれば、日本での多数のスモン患者発生はなかったと言われている。チバ社は自社の利益のために動物実験結果を無視したのだ。

 今回の永山意見書もチバ社の応答とまったく同じだ。永山医師は、ヒトで起きる可能性のある事象(害作用)についてはマウスで実験しても意味がないと決めつけ、そして発症機序(メカニズム)を解析できて初めて意味のある研究になるのだとして、放射線と慢性甲状腺炎(橋本病)の関連性を否定しようとしている。しかもチバ社の場合は第3者の獣医からの問い合わせに対して誤魔化しをしたものだが、永山医師の場合は自らの論文を自ら否定して誤魔化そうとするものであるから、チバ社以上にひどい問題で、科学者にあるまじき、許されない所業だと尾藤弁護士は批判した。

 尾藤弁護士はさらに今日の医療・科学界における動物実験の持つ重要性について、1964年採択のヘルシンキ宣言(第18回世界医師連合総会)を紹介しながら明らかにした。動物実験は合法的手段により動物福祉に配慮して倫理的に行われ、社会的認知の中で研究成果をあげなければならない(社会的に適正であること)、再現性の高い結果を得るために均質な実験動物、均質な環境や方法で行われなければならない(科学的に適正であること)などだ。さらに動物実件は「どういった事象が動物個体に発生したかの分析」(反応の検出)こそが大事なのであって、永山意見書のような「機序を解析できて初めてヒトに対しても推論可能性が出てくる」などといった考え方が認められる余地はない。ヒトとマウスとは極めて酷似していてマウスの実験動物としての適切さも十分に証明されていること、練り上げられた実験計画によって得られた知見であることなども詳しく述べられ、ヒトに応用することの科学的根拠が示された。

 永山意見書が全くのごまかしの論理であることに加えて、永山医師は自らの論文のことを「この研究結果を論文として発表した際には、何らかの結論を述べなければならないことから、末尾に『低線量放射線は、甲状腺自己免疫を増悪させる可能性が示唆される。』と記した」などと弁明にもならない、誠に見苦しい「弁明」を書いている。本来論文に誤りがあると認めるならそれはまた論文にして自己批判が展開されるべきことだが、そうではなく世間から隠れるようにして裁判所にだけこっそりと意見書として提出するなど、科学者として恥ずべき行為だと、尾藤弁護士は永山意見書と国のやり方を糾弾して陳述を締め括った。


写真1_convert_20170307160601

 報告集会では、この日の意見陳述でなぜ永山意見書批判を詳細に展開したのかについて、その背景、経緯、理由についてもう一度簡潔に報告された。地裁レベルではすでに数多くの判決も積み重ねられていて、司法判断の定説のような状況も作られている。しかし控訴審になった場合、まだまだ判決が揺らぐ可能性は残されていて、特に専門家や権威というものに対して弱さが見せられる場合もある。武田武俊さんや梶川一雄さんの逆転敗訴判決がその好例で、苦い思い出として残っている。そうはならないように、国の持ち出してくる意見書や主張の本質を裁判官にしっかりと理解してもらうために、今日の尾藤弁護士の意見書は準備されたのだ、と強調された。

写真3_convert_20170307160737  

 一審原告6人が争う訴訟控訴審Cグループは次回の弁論日程が5月11日(木)、次々回が7月13日(木)と決まっていて、この日が最終弁論、結審となる予定だ。いよいよ年内にも判決言い渡しの可能性が出てきた。

写真2_convert_20170307160713

 東日本大震災、東電福島第一原発事故発生からまる6年が経過した。依然として事故の収束目途は立たず、汚染水の流失も放射線の放出も続いている。避難者は福島県だけでも未だ8万人にのぼり人々の健康と生活は深刻な事態が続いている。こうした状況にも関わらず安倍政権はこの4月、限定された帰還困難区域以外のすべての地域を避難指示解除することにしている。避難解除は損害賠償の打ち切り、住宅無料提供の終了なども伴うもので、実質的な強制帰還、被災者切り捨て以外のなにものでもない。この避難指示解除の根拠とされているのが「空間線量20㍉シーベルト/年は人体に影響しない」とする「放射能安全論」だ。本来は、原子炉等規制法や放射線障害防止法によって、許容される放射線量は1㍉シーベルト/年と厳しく定められているにも関わらず、福島第一原発では今もって緊急事態宣言が発せられたままで、それを根拠にダブルスタンダードが公然と通用している事態だ。
 この「20㍉シーベルト安全論」の押し付けに寄与しているのが、国の求めに応じていかようにも自説を展開する「専門家」「権威筋」の先生方だ。私がノ―モア・ヒバクシャ近畿訴訟と共に支援活動している福島から京都に避難している人々の裁判=原発賠償京都訴訟では、1月27日と2月17日の2回に渡って専門家証人尋問が行われた。東電・国側の証人として登場したのが、酒井一夫、柴田義貞、佐々木康人の3名で、いずれも、2014年5月にノ―モア・ヒバクシャ訴訟の判決を批判するために提出された35人連名意見書「原子爆弾による放射線被爆と健康影響に関する意見書」に名前を連ねている人たちだ。3名は、ひたすらICRPやUNSCEARの権威に頼って「放射能安全論」を主張し、原発事故被災者に実際に発生している健康障害や低線量被曝の危険性、不安に応えることはなかった。


写真5_convert_20170307160833

 今回の尾藤弁護士の意見陳述を聞いても、あらためてノ―モア・ヒバクシャ訴訟において放射線起因性を明らかにし認めさせていくことが、福島原発事故被災者の救済と放射能汚染からの防護、健康とくらしの対策にもつながっていくものであることを実感する。被爆者のための原爆症認定制度抜本改革をめざすと共に、「福島切り捨て」を許さず、原発事故被災者の完全救済、真の放射能防護対策確立、「原発ゼロ」の日本をめざしていきたいと思う。7回目を迎えた3.11の日にあたって。


ノーモア・ヒバクシャ近畿訴訟今後の日程
2017年 3月14日(火) 13:30 地裁 第7民事部 806号 本人・医師尋問
2017年 3月15日(水) 11:00 地裁 第2民事部 1007号 弁論(原告7人)
2017年 5月11日(木) 11:00 高裁C 第13民事部 202号 弁論(原告6人)
2017年 5月12日(金) 11:00 地裁 第7民事部 806号 弁論(原告5人)
2017年 6月 3日(土) 午後 近畿の支援のつどい(大阪グリーン 会館)
2017年 7月13日(木) 11:00 高裁C 第13民事部 202号 弁論(原告6人)
2017年 7月14日(金) 11:00 地裁 第7民事部 806号 1人結審の予定


2017.03.12 Sun l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top