10月29日に行われた第24回「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」で発表された検討会報告の骨子案は、現行の認定基準をも後退させかねないトンデモない内容でした。
11月14日には第25回検討会が開催されますが、それに先だって、被団協事務局長の田中煕巳事務局長が厚労省と検討会委員に送った「検討会報告の骨子案批判」を紹介します。
厚労省は初めからこの骨子案の内容に落とし込もうと目論んでおり、厚労省の思惑通りの結論になっています。
このような骨子が検討会報告として出されることは絶対認められません!!

2013117
日本原水爆被害者段階協議会
事務局長 田中 熙巳
 
検討会報告の骨子案批判
 
第1はじめに
 1議論の方向性
   原爆症認定制度の在り方に関する検討会報告の骨子案(以下「骨子案」といいます)に対して,以下の通り意見を申しあげます。
   その前提として,まず検討会の基本的な議論の出発点である「中間とりまとめ」の内容,並びにこの間の政府の責任者の検討会の方向性に関する意見を整理し,検討会が正しい方向で検討を進め,成案を得るための指針としたいと考えます。
 
 2中間とりまとめの内容
 
 
 第13回の検討会の「中間とりまとめ」には「被爆者に対する援護には,一般社会福祉とは異なる理由がある」等々,以下の大切な共通認識がありました
 
 
 ①被爆者に対する援護には,一般社会福祉とは異なる理由があることに留意すべき。
 被爆者が高齢化していることも考慮し,裁判での長期の争いを避ける制度を作る必要がある。
 より良い制度にするために,必要に応じて,被爆者援護法を改正すべきという意見も出された。
  被爆者援護法の第10条・第11条に基づく原爆症認定の制度は破綻しているという意見があることにも留意する。
 より良い制度を目指して行く方向は一致している。
 司法判断と行政認定の乖離を認め,どのように埋めて行くかを考えていく必要がある。
 科学的知見は重要である一方,科学には不確実な部分もある。こうしたことを前提に考えていく必要がある。
 
 3安倍晋三内閣総理大臣及び田村憲久厚労省大臣の意向
 
 
  安倍晋三内閣総理大臣と田村憲久厚労大臣がこの86日、9日の平和式典以来原爆症認定制度についてそれぞれ重要な見解を表明しました。その発言を整理しますと以下の通りです。
 
 
安倍晋三内閣総理大臣は,今年の86日と9日の平和式典で,多くの被爆者,市民,海外の代表を前にして,「今なお苦痛を忍びつつ、原爆症認定を待つ方に、一日でも早く認定がおりるように最善を尽くします」,「被爆された方々の声に耳を傾け、より良い援護策を進めていきます」と堅い決意を述べられ,この見解はNHKによる生放送で,全国に放映されています。
  ②田村憲久厚労大臣は,920日の厚労大臣と日本被団協等との定期協議において,冒頭で「昨年夏,中間とりまとめがなされたなかで,認定制度をより良い制度とするために被爆者援護法を改正すべきであるということ,司法判断と行政認定を埋める必要があること,これは概ね認識を共有されていると思っております」と述べました。
  さらに発言者の質問に答えて「行政判断と司法判断との乖離が起こらないような方向で検討会のなかで議論してもらうべきであると思っています」との発言もしています。
    また田村大臣は,926日の第23回検討会が行われた直後の27日の記者会見で,記者からの「委員の議論のなかでは,裁判はあくまでも個別事例を判断したに過ぎなくて,認定制度に影響を及ぼさないという意見があったがどう考えるか」という質問に対して,「この検討会の一つの大きな目的は,司法判断と行政認定の乖離をどのように埋めるかというということでございますから,個別の判断だから,それに対して一切議論を行わないというわけではないですね。乖離をどのように埋めていくかというご議論をしていただく検討会だと思っております」と答弁しました。
  さらに記者の「昨日の議論のなかでは,乖離というものはどうしても仕方がないものだと(いう意見が出されたが)」という質問に対して,大臣は「そういうような判例といいますか,個別事案をどうやって他のものと一般化するなかで,あうようにして行くかという努力を,検討会のご議論のなかでしていただいているのだと,私は認識しております」とも答弁しています。
  さらに記者の「多少大臣のいわれていることと,議論のなかで委員がご発言されているかことは,それこそ乖離があるような(状況がありますね)」という質問に対して,田村大臣は「分かりました。私もどういうご議論なのか,ちょっと確認してみたいと思います」と答えています。
 
第2基本的な考え方と各論
 1根本的問題点の指摘の欠如
 
 
 骨子案の基本的な考え方を議論するにあたっては,何故に司法判断と行政判断の乖離が生まれたのか,また乖離はどのような点に具体的に現れているのか,したがってこの検討会は乖離を埋めるためにどのような方向に進むべきか,ということに関する的確な分析がなされなくてはなりませんが,それが行われていません
 
 
  骨子案の基本的な考え方を見ると,第23回の議論を踏まえて,各論から入るのではなく,認定制度検討会が発足した原点である司法判断と行政判断の乖離をどのように埋めて行くか等の指摘がまず記載されています。しかしその内容は極めて不十分です。なぜなら乖離を述べるのであれば,何故に司法判断と行政判断の乖離が生まれたのか,また乖離はどのような点に具体的に現れているのか,したがってこの検討会は乖離を埋めるためにどのような方向に進むべきか,ということに関する的確な分析がなされなくてはなりません。しかしその分析はまったくなされていません。上記の分析なくして議論を進めれば,検討会は方向性が定まらない,漂流した議論に終始する可能性があります。現実に検討会の議論は漂流した議論に終始したといわざるを得ません。

 2基本的な考え方(総論)と各論との矛盾
 
 
  基本的な考え方の総論部分の基本的認識は,各論にはまったく具体化されていない ばかりか,むしろ後退していま す。まさに「羊頭を掲げて狗肉を売る」がごとくです。日本被団協は、そのような検討会報告には同意できません。
 

  基本的な考え方に中には,第
1で記載した内容とほぼ同様な「被爆者援護施策には、一般の福祉施策とは異なる理由があることに留意」,「現行制度をより良いものにしていくということを基本として、制度の在り方について見直しを行っていくべき」とか,「被爆者の高齢化といった事情も考慮すると、司法判断と行政認定の乖離をどのように埋めていくかを考えていくことが大切」とかの記載が見られます。
   しかしこれらの基本的内容は,各論ではまったく具体化されていないばかりか,むしろ後退しています。まさに「羊頭を掲げて狗肉を売る」がごとくです。
  各論で述べられている内容では,被爆者に対する援護施策が一般社会福祉とは異なる理由があることについてまったく留意されておらず,行政判断と司法判断との乖離の解消も具体化せず,そして被爆者が裁判での長期の争いを避けるような制度にもまったくなっていません。
   残念ながらこのような方向で検討会の骨子がまとめられるようになれば日本被団協としては、そのような検討会報告には同意できないことを、まず最初にもうしあげます。
 
 不適切な断定的表現
 
 
  骨子案を見ると「意見」,「提案」から「不適当」,「適当」,「多数」等々,検討会での結論が出されたごとき,つまり評価を意味する表現が,各文章の結びに使用されています。しかし検討会において,そのような合意がなされたことはなく,誤った表現です。また検討会の結論は,多数決で決するものではなく,また安倍総理大臣の「被爆された方々の声に耳を傾け」という発言にあるように,被爆者の意見は軽視されるべきでないので,多数,少数の色分けも適切ではありません。
 

 骨子案を見ると,各論部分も含めて,各文書の末尾に異なった表現が用いられています。それは「留意する」,「必要」,「べきである」,「大切」,「意見」「提案」,「不適当」,「適当」,「多数」,「適当でない」,「望まし」,「共有」,「思料」,「指摘」等々ですが,これらの表現は文書内容の評価を意味するものです。
  例えば「留意する」,「意見」,「提案」は,単にそのような考え方の存在したことを示すに過ぎず,この表現にはこれらの意見は検討会の最終結論とは無関係なもの,というニュアンスが強く込められています。
  しかし他方で「べきである」,「大切」,「適当」,「適当でない」,「望まし」,「共有」等は,そこで示された内容が,第24回検討会での委員の意見にもありましたが,検討会全体で積極的に評価されたこと,あるいは否定されたこと,つまりそこで述べられていることが検討会の結論的な意味合いを持つものであるという表現になっています。誰が上記のような色分けを行ったのでしょうか。各委員の意見に軽重はなく平等であると考えます。また1名でも異論のあることが明確な内容や部分については,「べきである」,「大切」,「適当」,「適当でない」,「望まし」,「共有」等という断定的な表現は,絶対に避けるべきです。
   また検討会の結論は,多数決で決するものではなく,また安倍総理大臣の「被爆された方々の声に耳を傾け」という発言にあるように,被爆者の意見は軽視されるべきではありません。
    さらに選出されている委員は決して公平に選定されてわけではなく,日本被団協が推薦した多くの委員が選任されていないことを考えると,多数,少数の色分けも適切ではありません。
 
第3「1基本的な考え方(総論)」について
 1意見の共有について
 

 骨子案の「原爆症認定制度の在り方に関しては、累次の検討を経る中で,以下の考え方を共有」とした上で,「原爆症認定や医療特別手当の給付といった被爆者援護施策には、一般の福祉施策とは異なる理由があることに留意」と記載し,さらに「これらの制度に加えて特別な給付を行う原爆症認定制度について、国民に説明し、理解を得られるようにすることが必要」と記載されていますが,より正確に記載すべきです。
 

 上記の「一般の福祉施策とは異なる理由」は,第
1で述べたとおり,「原子爆弾被爆者の援護に関する法律(以下、現行法といいます)には国家補償的な配慮があるという」という意味です。そしてこの法の趣旨は孫辰斗最高裁判決をはじめ,その後の在外被爆者に関する地裁・高裁の判決,さらに原爆症認定集団訴訟における地裁・高裁の判決でも繰り返し指摘され,援護法に関する公権解釈となっています。
    また厚労省も,在外被爆者の援護に関しては,現行法の上記の趣旨にしたがって現に運用しています。したがって「被爆者援護法に国家補償的な配慮があるという」ことがその理由であることは明記されるべきです。その点を明記しなければ,「一般の福祉施策とは異なる理由」の意味があいまいとなり,「国民に説明し理解を得られる」ことができなくなります。
    また仮に第24回検討会の議論あったように,現行法の前文を引用するのであれば,「広島市及び長崎市に投下されて原子爆弾という比類のない破壊兵器は,幾多の生命を一瞬にして奪ったのみならず,たとい一命をとりとめた被爆者にも,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安のなかでの生活をもたらした」という部分と,「国の責任において,原子爆弾の投下の結果として生じた放射線に起因する健康被害が他の戦争被害と異なる被害であることにかんがみ,・・総合的な援護対策を講じ,あわせて,国として原子爆弾による死没者に尊い犠牲を銘記するためにこの法律を制定する」という前文を引用したうえで,この前文の考え方が,「被爆者援護施策には、一般の福祉施策とは異なる理由」の根拠であるとすべきです。

 2その他の部分について
 
 
 
 
 
 骨子案の「旧審査の方針の下で相当数の国敗訴判決が出され」との記載は不正確です
 

 
集団訴訟では,31ヶ所の地裁,高裁,最高裁での判決により,306名の原告のうち279名が勝訴あるいは認定基準の改定で認定されています(勝訴率91.1%)。したがって,「圧倒的多数の国敗訴判決が出され」というのが正確な表現となります。
 
 
 
 
 
 
 骨子案の「『新しい審査の方針』による認定審査の開始により、司法判断と行政認定の乖離は縮小した」という表現は,適当ではありません
 


  悪性腫瘍等の認定については一定の前進はありましたが,非がん疾患については,甲状腺機能低下症の爆心地から
2㎞付近までを除き,爆心地から1.5㎞以内の申請者しか認定されず,また入市被爆者は1名も認定がされていません。したがって,決して乖離が縮小したとはいえないのです。この現実を前提とするならば「司法判断と行政認定の乖離は縮小した」という表現は適当ではなく「悪性腫瘍に限っては,司法判断と行政認定との乖離は縮小した」という表現に止めるべきです。
 
 
 
 
 
 
 
 骨子案の「行政認定は放射線起因性に関し科学的知見に重きを置くのに対し司法判断は救済の観点から個別の事情を総合的に考慮するなどしており・・司 法と行政の役割の違いから,判決を一般化した基準と設定することは難いとい う意見」との記載は,誤った認識に基づくものです
 
 
    上記の表現では司法があたかも科学的知見を重視していない,つまり軽視して判断を行っているかのように読めます。しかし裁判所は決して科学的知見を軽視しておりません。裁判所は原告と被告双方から提出された膨大な科学的知見を,公平に比較検討したうえで,両者の主張の優劣や合理性を冷静に検討し,その結果,原告被爆者側の主張や証拠を採用し,圧倒的多数の原告勝訴の判決を導き出しているのです。
    さらに判決は,放射線の被爆線量や人体に対する影響には未解明な分野が多く残されているという正確な認識に立って,厳密な科学的な裏付けを要求することは被爆者に不可能を強いることとなるとしています。そしてこれらの理由から,判決は被爆の態様や被爆前後の健康状態も判断材料に加えて,科学的知見も含めて,総合的に全体的に判断することが適切であるとの結論を下しているのです
    しかもこの判示部分はすべての判決の総論部分の指摘です。つまりすべての判決が共通して指摘する部分であるが故に,個別の判決ごとに判断は分かれていません。したがって「判決を一般化した認定基準を設定することは難しいという意見」は,上記の判決の指摘に関していえば,誤った認識です。
 
 
 
 
 
 骨子案の「現在でも行政認定は救済の観点から厳密な科学的知見を超えて放射線起因性を認めており」とのべている点は,正確な記載ではありません
 

 
 まず申しあげなくてはならないことは,認定行政が「厳密な科学的知見」に基づいて行われなくてはならないという原 則や法の要請はまったくありません。厚労省が,そして医療分科会が,与党PTの案を取り入れた時点で,厳密な科学的知見に基づいた認定手続きは,集団訴訟の判決の趣旨にしたがって修正されたと考えるのが正確な認識です
    この認識は,検討会の何人かの委員がすでに指摘している点でもあり,また今回の骨子案の別の項目にも「既に科学的には影響が不明確な範囲まで積極的認定範囲を広げており」と記載されているとおりです。このような認定方法でも(「厳密な科学的知見」を用いなくても),現行法の第10条,第11条の放射線起因性の要件が満たされていることは重要です。
    私たちも,多くの判決と同様に,原爆症認定は科学的知見を踏まえつつ,被ばくの実態と現行法の前文に記載されている「原子爆弾という比類のない破壊兵器により,生涯いやすことのできない傷跡と後遺症を残し,不安のなかでの生活をもたらした被爆者に対する総合的な援護対策」という趣旨にしたがって行われるべきだと考えています。また判例の指摘する現行法の公権解釈(松谷最高裁判決は,爆心地から2.45㎞の,しかも外傷を申請疾病とする原告を認定すべきであると判示しています)にしたがって,厚労省が現在行っている頑なな認定制度の運用,つまりいたずらに科学的に解明されていることのみが科学であるという誤った科学主義に基づいて,不確実な部分を切り捨てるという認定制度の運用ではなく,より柔軟に認定制度を運用できるように制度を改善することが合法かつ適切だと考えます。
    検討会は科学の適否を判断する場ではないのです。検討会は,現行法の趣旨にしたがって,司法判断と大きく乖離する行政の認定制度を改善し、如何に被爆者の原爆症を認定すべきかを検討する場なのです。
            
第4各論について
 (1)放射線起因性について
 
 
 骨子案の「放射線に限らず,被爆者は皆何らかの原爆の影響を受けているのだから,慰謝の観点から」という部分は,日本被団協の意見を引用したものだと思われますがが,正確ではありません
 

 日本被団協の提言のとおり「被爆者は地獄を体験し,全ての被爆者が何らかの放射線被害を受けています。そのため心と体に深い傷を負ってい生き抜いてきました。子どもを産み育てるという人として自然なことさえ恐れおののき,就職,結婚など人生の節目など計り知れない苦しみから解放されることなく生きてこざるえなかったのです。そして今もなお,子や孫に健康問題が生じると『被爆のせいではないか』と我が身を責めているのです。被爆者健康手帳所持者全てに『被爆者手当』を支給することは,このような被爆者の人生の苦悩に慰謝する意味を持ちます,という提案」として下さい。
 
 
 骨子案の「放射線起因性が認められる一定の疾病について,手当に上乗せをするという提案」との記載は,これが日本被団協提案のことであれば,正確ではありません
 
 
      日本被団協の提案には「これまで放射線の影響が認められている疾病について・・手当の上乗せをする」という明記されているからです。したがってその旨に訂正をして下さい。
 
 
 
 
 
 
③ ア 骨子案には「この『放射線起因性』という要件については、国民の理解や他の戦争被害との区別といった観点から、制度を実施する上では欠かせず、被爆状況等の事情を問わず原爆症と認定することは不適当。むしろ、放射線起因性を前提として、認定の在り方を考えていくことが適当」と記載されていますが,
 
 
 
 
 
 
    上記部分は前記②の日本被団協の提案が不適当である,あるいは放射線起因性を前提として、認定の在り方を考えていくことが適当であると記載し,あたかも日本被団協の意見を否定することが検討会の全体の結論のように読める表現となっています。しかしこのような表現こそ不適当なのです。
    どこで日本被団協案の適否を決定したのでしょうか。日本被団協代表を含む検討会全体では,決して日本被団協案に対してこのような評価は行っていません。
 
  また②に記載した通り,日本被団協は,「被爆者健康手帳を有するすべての者に支給する被爆者手当を創設する」,あるいは「これまで放射線の影響が認められる疾病について・・・・・手当を加算する」と提案しています。
    このように,日本被団協の案は放射線起因性を一切無視して,無制限に手当の支給や加算を述べているわけではありません。なぜなら被爆者健康手帳所持者は,すべて放射線の影響がある者です。このことは,援護法第1条の1から4号被爆者の定義をご覧いただければすぐにご理解できることです。
    さらに加算疾病には「これまで放射線の影響が認められる疾病」とのいう絞りがかけられています。このことを正確に記載すれば,「国民の理解や他の戦争被害との区別」と観点からしても,まったく問題は生じません。
 
   
 
 
 骨子案の「放射線起因性を前提として、認定の在り方を考えていくことが適当」いう表現も問題です。
 
 
     なぜなら,検討会での私の発言にもあるとおり,日本被団協の考えている「放射線起因性」と厚労省の考えている「放射線起因性」とは,まったく異質なもので,その意味内容がまったく異なります。
     厚労省は,残留放射線の外部被ばくと内部被ばくをほとんど無視することを前提に放射線起因性を論じていますが,日本被団協や判決はそのように考えていません。さらに厚労省は各疾病,とくに非がん疾患にしきい値を設ける根拠として放射線起因性を用います(「放射線起因性のある心筋梗塞」の表現がその典型です)が,日本被団協や多くの判決はしきい値を設けることに反対しています。
     したがってこれらの違いを明示しないまま,あたかも検討会で「放射線起因性を前提として、認定の在り方を考えていくことが適当」という結論が導かれたごとく表現されることには,極めて不適切です。
     共通の認識として「適当」とするのであれば,「放射線起因性の意味内容については意見の一致はないが,原爆症が放射線の影響によるとの認識は一致しており,それを前提として、認定の在り方を考えていく」とすべきでしょう。
 
 (2)積極的な認定の対象となる被爆状況について 
 
 
 
①ア
 骨子案の「既に科学的には影響が不明確な範囲まで積極的認定範囲を広げて おり,現状以上に緩和することには慎重に考えるとの意見が多数」との記載の 意味は,以下のおとり正確に把握されるべきです。
 
    
    骨子案の,「既に科学的には影響が不明確な範囲まで積極的認定範囲をの広げており」という点は明確な誤りです。
    厚労省はこれまで初期放射線のみを根拠として認定を行っていますが,残留放射線の外部及び内部被ばくを無視することは非科学的であり,また「残留放射線の外部及び内部被ばくを考慮せよ」とした集団訴訟の多くの判決とも矛盾しています。
    したがって残留放射線の外部及び内部被ばくを考慮すれば,積極的認定範囲を広げることは,科学的でありまた適切なのです。
 
 イ  また厚労省の立場に立ったとしても以下のことがいえます。つまりすでに述べたとおり,厚労省が,そして医療分科会が,与党PTの案を取り入れた時点で,厚労省の言う「厳密な科学的知見に基づいた認定手続」の考え方は,集団訴訟の判決の趣旨にしたがって修正されたと考えのが正確です。そしてこの認識は,検討会の何人かの委員がすでに指摘している点あることもすでに述べたとおりです。
    厚労省が「厳密な科学的知見」に基づかないで認定を行うことができ,かつその認定が現行法第10条,第11条の合法的な解釈の範囲内にあるというのであれば,悪性腫瘍の認定に限らず,非がん疾患の認定の場合でも「放射線起因性が認められる]という文言を取り払い,悪性腫瘍と同様の柔軟な認定態度をとれば良いだけであると考えます。
 
  
 
 
 骨子案には「被爆状況については、残留放射線を考慮すべきであるという意見
や、残留放射線の影響に関しては現在では検出限界以下となってしまい被曝による正確な放射線量の検証は不可能であることから、被爆者は皆が何らかの原爆の影響を受けているとして、放射線の影響が認められている疾病は、個人の被曝状況に関わらず全ての被爆者を対象として認定すべきとの意見」が紹介されています。この部分は被団協の意見を紹介したものだと考えますが,いくつかの誤った引用があります
 

  まず第一に,日本被団協は「残留放射線の影響に関しては現在では検出限界以下となってしまい被曝による正確な 放射線量の検証は不可能であることから」ということを根拠にして,被爆者は皆が何らかの原爆の影響を受けていると主張している分けではありません。日本被団協は,残留放射線の外部及び内部被ばくを考慮すれば,また被爆者の熱線,爆風,放射線の相乗的複合被害である被爆の実態からすると,被爆者は皆が何らかの意味で原爆の影響を受けていると考えているのです。
    第二に,「放射線の影響が認められている疾病は、個人の被曝状況に関わらず全ての被爆者を対象として認定すべきとの意見」も誤りです。日本被団協は,現行の認定制度の廃止を提言しているのですから,個人の被曝条件に応じた疾病の認定ということはあり得ません。「放射線の影響が認められている疾病は、個人の被曝状況に関わらず,全ての被爆者を対象として,加算区分にしたがって手当を給付すべきとの意見」にして下さい。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 骨子案には「残留放射線については、認定審査に当たっても一定の評価をしており、広島・長崎での残留放射能調査のデータ、放射線影響研究所の見解などを見ても、初期放射線に比べて相当少なく、基本的に健康に影響を与えるような量は確認されていないというのが科学的知見である以上、残留放射線に着目して積極的認定範囲を現行以上に広げることは適当ではない」との記載がありますが,「適当ではない」という表現は不適切です。またこの点については明確な反論があったことも明記すべきです
 
 
ア 
末尾の「適当ではない」という記載は,検討会の全体の意見がそのようにまとまったごとき表現であり,読むものに誤解を与えます。「という意見があった」とすべきです。
   
イ 
上記の「残留放射線については、認定審査に当たっても一定の評価をしており、広島・長崎での残留放射能調査のデータ、放射線影響研究所の見解などを見ても、初期放射線に比べて相当少なく」という意見は誤りです。厚労省 は,残留放射線については,近距離の地上の誘導放射線や黒い雨地域といった,ごく限られた地域に限定して,例外的に考慮に入れているに過ぎません。
    また「残留放射線の内部・外部被ばくは,微量だから考慮する必要はない」というのは根拠のない表現ですが,厚労省が現在でも裁判所で行っている,一貫した主張なのですから,今更の感があります。

  ウ また「広島・長崎での残留放射能調査のデータ、放射線影響研究所の見解などを見ても、初期放射線に比べて相当少ない」という点も明らかに誤りです。初期放射線は爆心から遠くなれば弱くなるものであり,中心部の強い初期放射線と残留放射線の強さを比べること自体誤りで、科学的知見や被爆実態とかけ離れており,また多くの判決の指摘とも矛盾しています。

 
 
 
 
 
  骨子案には,「外形標準を分かりやすく明示するのが望ましい」旨の記載がありますが,誰が望ましいとの価値判断を下したのでしょうか。この部分も「という意見があった」とすべきです
 
 
(3)積極的な認定の対象となる疾病について
 
 
 
 
 
 
 骨子案の「科学的知見を共通認識として大切にしつつ,援護を行う際には客観的な根拠に基づいて行うべきという認識を共有」との記載がありますが,このような認識が共有されたことはありません。
 

 
この部分を残すのであれば「科学的知見を共通認識として大切にしつつ,援護を行う際には,原爆の被害が他の戦争被害と異なる悲惨な戦争被害であるという基本認識ならびに国民感情があり,したがって被爆者援護法の精神に則って援護を行うべきという認識を共有」とすべきです。

(非がん疾患について)
 
   
 
 
 
 
   
 骨子案の非がん疾患に関する記載についても「非がん疾病については、低線量での影響は認められていないことから、悪性腫瘍等と非がん疾病と同様の取扱いを行うことは適当ではない」との断定的な表現がありますが,このようなことが私も含めて確認されたことはなく,的確性を欠く表現です。「という意見があった」とすべきです
 
 
    低線量領域での非がん疾患の発症につては,新しい審査の方針の実施後の認定却下事例に対する集団訴訟で,多くの判決がすでに指摘しているところです。   
    例えば直近の大阪地裁判決では,「狭心症及び心筋梗塞と放射線被爆との間には関連を認めることができ、かつそこには『しきい値』は存在しないと考えることが合理的である」としたうえで、原告らの狭心症及び心筋梗塞の放射線起因性を認めています。また甲状腺機能低下症についても、判決は,「低線量域を含めて放射線起因性を肯定することができる」201382日・大阪地方裁判所第2民事部の判決)としています。したがって「悪性腫瘍等と非がん疾病と同様の取扱いを行うことは適当ではない」という結論は,裁判によっても明確に否定されているのです。このような判断は,放影研による疫学調査でも,最初はしきい値があると考えられていた悪性腫瘍について,しきい値がないと考えられるようになり,さらに放射線の影響のないとされた非がん疾患についても影響が認められ,近時では,非がん疾患にもしきい値がないという方向に研究が進んでいます。
    そしてこの大阪地裁の判決に対して,安倍総理大臣が,89日長崎で,控訴を断念していることも忘れてはなりません。
   つまり科学的に見ても,これまでの政府の態度から見ても,「悪性腫瘍等と非がん疾病と同様の取扱いを行うことは適当ではない,つまり認定すべきではない,ということは少数意見なのです。

 
 
 
 
 
 
 
 骨子案には,「認定範囲を明確化するという観点から、それぞれの疾病について、科学的知見とともに、限られた情報の下で判断することの限界も考慮しつつ
、『放射線起因性が認められる』といった抽象的な文言に代えて一定の距離等の外形的な標準を示し、それを満たしているものは柔軟に認定することが適当」との文言があります。
 しかし「一定の距離等の外形的な標準」の具体的内容如何では,より悪い制度になりかねません
 
 
    日本被団協の意見は,新たに「一定の距離等の外形的な標準」を設けるのではなく,単純に「放射線起因性認められる」という限定を削除することであり,したがって「することが適当」という評価を含んだ表現は適切ではなく,単純に「という意見があった」とすべきです。
 イ 今回の検討会の答申に関して日本被団協が最も危惧している点は,まさに上記の「『放射線起因性が認められる』といった抽象的な文言に代えて,一定の距離等の外形的な標準を示す」という表現なのです。
   新しい審査の方針のがん,白血病などの3.5㎞以内の直爆,100時間以内の入市などはまさに外形標準であって,新たな外形標準の導入を示唆するような表現を残すことによって,例えば「心筋梗塞は1.5㎞以内を認定し,入市の場合は認めない」という,現在の認定行政を追認するがごとき表現が,「外形標準」という名目で導入されるとすれば,中間とりまとめに反し,司法と行政の乖離を解決するどころかさらに拡大し,安倍総理大臣や田村厚労大臣のこの間の発言に反する「より悪い認定制度の導入」になります。
 
(現行の7疾病以外について)                 
 
 
 
 
 
 
 骨子案には,「現行の7疾病のほか、科学的知見の確立していないものも含め 更に多くの疾病を追加すべきとの意見もみられたが、明らかに対象とすべきも のは既に含まれていると思料」との記載がありますが問題です
 
 
    まず第一に,「科学的知見の確立していないものも含め更に多くの疾病を追加すべきとの意見」というのは誰の見解でしょうか。日本被団協は「これまで放射線の影響が認められている疾病について・・手当の上乗せをする」と明記しており,その表現を取り入れて下さい。 
    第二に,「明らかに対象とすべきものは既に含まれている」という見解は,日本被団協の提言と異なります。判決やこれまでの疫学データからすれば,例えば腎疾患や脳梗塞等と,さらに広く放射線の影響がある疾病は広がるというのが日本被団協の考え方です。したがってここで「思料」という極めてあいまいな表現を用いるのは適切ではないと考えます。
 
  
 
 骨子案には「一般の治療を要さない患者が多いなど,症状が重篤でない疾病については,病名のみに着目して積極的な認定の対象疾病とすることは慎重に考えるべき」との断定的な表現があります。
 
 
    検討会では,手当の区分は別にして,認定疾病の範囲の問題に関して症状の重度の議論が行われたことはありません。また認定疾病に関して重度を問題とすることは,医療費を全額国庫負担とするか否かについての規定である現行法第10条,第11条とも矛盾すると考えます。
    このような表現が突然出て来るのは,原爆症認定問題を医療特別手当の支給に関わる認定問題として議論してきたことに,根本的な問題があるのです。
    さらに「一般の治療を要さない患者」であれば,要医療性の要件の部分で判定すれば良いだけで,この意味でもこの表現も不適切です。               
 
(4)認定基準の明確化について
 
 
 
 
 
 
 
 
①ア
 骨子案には,「裁判では個別の事例に基づいて判断が行われるのに対し、行政認定においては同様の状況なら同様の結論といった公平な判断が求められることから、乖離を埋めていく努力は必要だが、乖離を完全に解消することは難しいとの意見や、判決がこのように個別例である以上判決を一般化した基準を設定することは困難との意見が多数」との記載があります。しかし圧倒的な厚労省の敗訴判決の趣旨は明確であり,行政は司法判断に従うべきです
 
 
    判決は個別事例に関する判断であり,裁判所ごとに違いが出てくることはあり得ます。しかし司法判断と行政認定の乖離を検討する場合には,個々の判決の文言等の違いを超えて,判決の全体の傾向や流れを重視すべきであることは当然のことです。
  まず指摘できることは,集団訴訟では31ヶ所の地裁,高裁,最高裁での判決が下され,306名の原告のうち279名が勝訴あるいは認定基準の改定で認定されしており(勝訴率91.1%),敗訴が確定した原告はわずか27名でした。
   そしてこの判決の傾向は,既に第22回検討会の資料5として提示されています。例えば肝機能障害であれば,爆心地から5㎞までの35名原告が勝訴しており,敗訴原告は傍論で数行の指摘のある1名のみです。さらに7日間までに入市した13名の原告が勝訴し,敗訴原告は1名もおりません。このように,類似の事項について同趣旨の判断が繰り返されるとき,そこで定立された規範は,個々の具体的事件を解決するための規範にとどまらず,一般法規範となり,将来の裁判所の判断を拘束するようになります。
   また法治国家である以上,行政は裁判所のこのような基本的な姿勢を受け入れ,判例の趣旨に沿って司法判断と行政認定の乖離を埋めるべきです。つまり厚労省は,個別の判決ごとのわずかな差異に拘泥することなく,この圧倒的な厚労省側の敗訴の流れを正確に把握し,集団訴訟の判決で示された判決内容や傾向を尊重し,これを反省することを前提として,今回の原爆症認定制度の改訂の検討を行うべきなのです。
 
 
 
 
 
 
 
 
 骨子案には,再度「司法判断と行政認定の乖離が生じる背景としては、非がん
疾病の具体的な認定要件が不明確であり、分かりづらいこと」さらに「現行の認定基準をより明確化する等の取組みが、ひいては司法判断と行政認定の乖離を縮めると思料」と記載されていますが,認定基準の明確化はその方向性を誤れば司法判断と行政認定の乖離を拡大しかねません
 
 
    認定基準の明確化は,その方向性を誤れば司法判断と行政認定の乖離を拡大し,さらに多くの裁判を誘発し,厚労省が敗訴判決を積み重ねることになり、8月の大阪地裁の例のように裁判に勝てば認定する、裁判に訴えなければ認定しないというような,非人道的な行為を病に苦しむ高齢な被爆者に対しこれ以上をつづけてはなりません。
    ここで重ねて指摘をいたしますが,例えば「心筋梗塞は1.5㎞以内を認定し,入市の場合は認めない」という,現在の認定行政を追認するがごとき表現を「外形標準」等名目で導入するとすれば,それこそまさに司法と行政の乖離を拡大し,安倍総理大臣や田村厚労大臣のこの間の発言に反する「より悪い認定制度」の導入になりかねません。
 
(5)要医療性について
 
 
 骨子案には,「要医療性の範囲の明確化や,要医療性の判断を客観的に確認する策を導入することが適当」の記載がありますが,このことが被爆者に対する単なる給付の切り下げになることは,十分に配慮しなくてはなりません
 

 骨子案の記載は,一般的には適切なことだと思います。しかし認定の範囲の拡大を伴わないで,単に要医療性のみを厳格に審査すれば,被爆者に対する単なる給付の切り下げになることは,十分に配慮しなくてはなりません。  
 
(6)手当の区分の認定,基準などについて
 
 
  認定条件や疾病範囲の拡大を伴わないで,単に手当を段階的にするということになれば,骨子案に記載されている通り,単なる制度の改悪になります
 
 
   骨子案のこの項目で記載されていることが,議論されたことは確かです。しかしこれらの議論は,法改正を前提に,認定条件や疾病範囲の拡大に伴って給付を適正化することが主眼です。認定範囲の拡大を伴わないで,単に手当を段階的にするということになれば,骨子案に記載されている通り「抜本的な認定基準の拡大なくして,区分の導入により現行よりも手当額が下がる方が生ずる」だけ,つまり認定水準の切り下げ,単なる制度の改悪になることには十分に留意をすべきです。
 
(7)国民の理解など
 
 骨子案のこの項目は,これまでの整理の繰り返しです。
放射線起因性の要否については,既に第4の1で詳細の述べたとおりです。
重篤度の議論も,既に第4の3の⑥で指摘したとおりです。
一般社会福祉施策とは異なる理由の点と,国民への理解の周知の実施の点についても既に,第3の1で述べたとおりです。


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2013.11.08 Fri l 未分類 l コメント (0) トラックバック (0) l top