続いて、西晃弁護士による意見陳述です。
西さん、原爆症認定集団訴訟における5回の判決の何れも、法廷で聞いたことがなく、いつも支援の皆さんと一緒に法廷の外で待っていました。
この意見陳述もすばらしかった。
裁判官の表情も真剣でした。

代理人意見陳述書

 

原告ら訴訟代理人

 弁護士  西       晃

大阪地方裁判所第2民事部 御中

 

私の方からは、第1次集団訴訟提訴以来約9年間に及ぶ原爆症認定訴訟の中で、常に原告ら被爆者に寄り添い、この訴訟を支え応援して頂いて来た方々の立場に立って、この間の裁判所への思いと、今後の原爆症認定訴訟の審理における期待を申し述べたいと思います。

 

1.勇気を与えてくれた第1次~3次集団訴訟勝訴判決

  原告9人全員勝訴の2006年5月、第1次集団訴訟地裁判決以来、昨年(2011年)12月の第3次集団訴訟地裁判決まで、近畿原爆症認定集団訴訟においては、大阪地裁・高裁あわせて5回の判決言渡しがなされました。そのいずれの判決言渡し期日においても、私は法廷でそれを聞くことはありませんでした。法廷の外で、多くの支援の皆さんと共に、弁護団の仲間が「全員勝訴!」の旗を持って走り出して来るのを待っていました。

  判決言渡し予定時刻を過ぎてからの数分間は、ある種の静寂と複雑な緊張感がその場を支配します。やがてその静寂を破るかのように、早足で懸けてくる若い弁護団メンバー・・裁判所の門を出たところで誇らしげに掲げられる「勝訴」の第一報。一瞬で静寂は喜びと歓喜に変わり、やがて感動の渦に包まれます。満面の笑みを爆発させる人、これまでの原告被爆者の苦難を思い、感極まって涙にくれる方・・いろんな感情が一気に爆発する・・そんな場面をずっと見続けて来ました。その意味で、近畿原爆症認定訴訟を見つめ続ける国民の視点から改めて申し上げます。

裁判所が示した道理のある判断枠組み、そしてそれに基づく勝訴判決の数々、私達はこれにどれだけ勇気を得たことでしょう。この判断の根底には、原爆投下の際に、広島・長崎のあのキノコ雲の下で一体何が起こったのか?生身の人間の体の中で一体何が起こったのか?原爆被爆の実相に少しでも迫ろうという姿勢があったと思います。科学や医学という論理だけに頼るのではなく、実際に被爆をした、目の前にいる被爆者の生の声にも耳を傾けようと努力する姿勢なしに、この間の一連の判断は出てこないと思っています。

大変残念なことに、勝訴判決を聞くことなく、また喜びもつかの間に、お亡くなりになられた方もいました。でも、それぞれの被爆者の人生の中に「あなたの病気は原爆に起因しているんですよ」との言葉を送ることが出来たこと、それを私達は誇り思っています。

 

2.司法判断と行政判断の「乖離」という見方について

  さて次に申し上げたい点は、一連の集団訴訟判決で積み上げられて来た司法判断の到達点と行政判断の溝、それを「乖離」と表現し、なおも自らの立場に固執する国・厚生労働省の姿勢であります。

  2009年8月に締結されたいわゆる8・6合意の背景や意義、その後の被告国・厚労大臣による被爆者切り捨てとも言える認定行政の実態に関しては、ここでは繰り返しません。

  今私の手元には、先月(2012年)1月24日(木)に開催された第8回原爆症認定制度のあり方に関する検討会の席で、厚労省側が提出した「行政認定と司法判断の乖離についての留意点(これまでの議論を基にした整理)」というペーパーがあります。その中で厚労省側は、これまでの各地で積み上げられて来た司法判断に関して、個別の事例毎の判断であり、この「個別の司法判断を行政認定として一般化することはできない」としています。その際ご丁寧に最高裁では「高度の蓋然性」を必要とする判断が確立していると念押しまでしています。

そして司法判断にも限界があり、行政として、如何に司法判断と科学的知見の「乖離」を埋めて行くべきかという問題提起をしているのです。

これを見聞きされて、皆さんはどうお感じになりますか?これまで全国各地で積み重ねられて来た司法判断は、単なる個別事例の羅列に過ぎないのでしょうか。高度の蓋然性という最高裁判所によって確立された考え方を無視した判断をして来たのでしょうか。断じてそうではありません。

昨年12月にこの第2民事部で改めて示された判断枠組み

「・・・原爆放射線被曝の事実が当該申請に係る疾病等の発症又は治癒能力

の低下を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性が認められるか否かを経験

則に照らして判断するのが相当である」

「・・・被爆者の放射線量を判断するに当たっては、当該被爆者の被爆状況、

被爆後の行動、活動内容、被爆後に生じた症状等に鑑み、様々な態様の外部

被曝及び内部被曝の可能性がないかどうかを十分に考慮する必要がある」

これは、それまで全国各地で出された30近くに及ぶ司法判断の集大成・到達点とも言えるものです。そして被告国はこの判断に対し、自ら合意をした2009年の「8・6確認」に基づき上訴の権利を放棄し、この判断に服しているのです。

そこで問題となっている事柄が、政策判断・政治的判断の当否ではなく、こと原告被爆者の権利・義務に関連し、被爆者援護法という法令の解釈・適用に係わるものである以上、行政は司法の上記判断に従う、これがいわゆる「法の支配」の大原則ではありませんか。今厚労省が行っていることは、この法の支配を官僚(人)の恣意的支配に引き戻し、皆さん方裁判所の真摯な努力の結果を踏みにじるものとは言えませんか。私達はそう確信しています。

仮に百歩譲って、どんなに控え目に考えても、今回もまたぞろ性懲りもなく主張している「内部被曝の健康への影響を重視する必要はないというのが科学的知見である」との部分、これだけは絶対に容認できませんのではないでしょうか。ここまで来ると、これは司法判断の到達点に対する意図的な敵視ではありませんか。皆さんはこれを容認出来ますか?

 

3.国家賠償に踏み込んで欲しい

  今原爆症認定行政で実際に起きていること。それは厚労大臣が、憲法と法によって付与された職務上の義務に明確に違反し、被爆者である原告らの原爆症認定を妨げ続けているということです。

  そうであるのなら、司法裁判所には、原爆症認定申請に対する却下処分の取消だけでなく、国家賠償法1条1項に基づく違法(職務上尽くすべき義務違反の違法)を高々と宣言し、損害賠償請求という観点からも積極的判断を行うことが求められると思います。

  今年2012年もこれから先、幾つかの判決がこの部でも出されると思います。その時、私は、やはり法廷の外で、支援の仲間と一緒に弁護団の旗を待っているだろうと思います。

そして今度こそ必ず「勝訴判決!」と共に「国家賠償認める!」という吉報が届くことを期待し、そう信じています。

  2006年5月に全国に先駆け、私達が歓喜の涙を流したここ大阪の地で、後に続く多くの被爆者にもう一度勇気・元気を与えてくれる司法判断を心より期待して、私からの意見陳述とします。


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2012.02.23 Thu l ニュース(原爆症裁判) l コメント (1) トラックバック (0) l top