本日、大阪地方裁判所第7民事部で行われた原爆症認定訴訟・取消第5次訴訟及び第8次訴訟(併合)の口頭弁論期日における証拠弁論の内容です。

第1 はじめに

 今般提出した甲A75号証ないし78号証に関して意見を申し述べます。
 先日、11月18日、小宮山洋子厚生労働大臣と日本被団協、原爆症認定集団訴訟全国原告団、同全国弁護団との定期協議が開催されました。
 これは、2009年8月6日に日本被団協と内閣総理大臣麻生太郎氏との間で締結された「原爆症認定集団訴訟の終結に関する基本方針に係る確認書」第4項に基づく厚生労働大臣と被団協・原告団・弁護団との定期協議であり、前回、2010年1月14日以来、実に1年10か月ぶりに開催されたものです。
 
第2 原爆症認定に関する統一意見書(甲A75号証)

 第1回定期協議では、認定基準の再々改定について前進が見られないため、依然として被爆者援護法の趣旨やこれまでの集団訴訟の判決と明白に矛盾する審査が継続されており、審査基準の早期の再改定が必要であることが明らかになりました。
 そこで、統一交渉団は、統一意見書をとりまとめて協議に臨みました。
 それが、甲A75号証の「原爆症認定に関する統一意見書」です。

第3 厚労省が行った2010年4月から11年4月までの原爆症認定に関する分析について(甲A76号証)

 1 はじめに

 今回、統一交渉団は、2010年4月から2011年3月までの原爆症認定に関する分布状況についてデータを分析しています。それが甲A76号証です。
 これは、厚生労働省から公表された紙ベースのデータを入力して集計したもので、被曝手帳あるいは申請書類に記載された被曝距離・入市日を基準としており、必ずしも最終処分の時点で審査の根拠とされた距離・日ではないことなどの限界はあるものの、処分の傾向を明らかにするものといえます。

 2 悪性腫瘍について

 まず、悪性腫瘍(白血病を含む)については、直爆3.5kmを超え、また入市日が4日を超えると、認定の割合が極端に落ちています。
 悪性腫瘍の場合ですら、直爆3.5kmを超える、あるいは入市日4日を超える申請者の場合には、機械的に却下していると考えられるのです。厚労省が認定している距離は、多くの被爆者が死亡している高線量被曝地域です。

 3 白内障について

 白内障は、入市被爆者の放射線起因性を一切認めず、1.4kmを超える近距離被爆者がすべて却下されています。奇跡的に生き残った被爆者しか認定されていないというのが現状です。

 4 心筋梗塞について

 心筋梗塞は、入市被爆者の放射線起因性を一切認めず、1.5kmを超える近距離被爆者はすべて却下されているのが現状です。

 5 甲状腺機能低下症について

 甲状腺機能低下症は、入市被爆者の放射線起因性を一切認めず、2.0kmを超える近距離被爆者はすべて却下されているのが現状です。

 6 肝機能障害について

 肝機能障害は、入市被爆者の放射線起因性を一切認めず、1.3kmを超える近距離被爆者がすべて却下されているのが現状です。

 7 悪性腫瘍、白血病以外の疾病について

 悪性腫瘍、白血病以外の疾病の認定率は、甲状腺機能低下症が17%、心筋梗塞が6%、慢性肝炎・肝硬変が4%、白内障に至っては2%という極めて低い比率でしか認められていません。

 8 脳梗塞・狭心症など判決において起因性が認められた疾病について

 脳梗塞、狭心症など、集団訴訟において裁判所が放射線起因性を認めた疾病についても認定された例は皆無です。

 9 新しい審査の方針について

 原爆症認定に関する基準は、集団訴訟で勝訴判決が連続する中、2007年8月5日、広島において、当時の安部総理大臣が認定基準の見直しを指示したことにより、翌2008年3月17日に大幅に改められました。
 その基準は、①爆心地から3.5km以内の被爆者、②100時間以内に爆心から2km以内に入市した被爆者、③100時間経過後から、約2週間以内の期間内に爆心地から約2km以内の地点に1週間程度以上滞在した被爆者からの積極認定対象疾病の申請疾病については、格段に反対する理由のない限り積極的に認定すると定められています。
 また、積極認定の範囲を超えた場合であっても、被曝線量、既往歴、環境因子、生活歴等を総合的に勘案して、個別にその起因性を総合的に判断するとされています。
 しかし、上記のとおり、実際には、入市は全部却下、3.5km以遠は認めないという機械的適用がなされているのが実態です。
 交渉団は、厚労大臣に対して、このような審査の実態に照らし、「隠された審査の内部基準があるのではないか」、「総合判断は実質上行わないという方針を持っているのではないか」と厳しく迫りましたが、厚労大臣は、被爆者が新しい審査の方針に期待を寄せたのは承知しているが、「司法の判断を一般化することはできない」と歯切れの悪い答弁に終始しました。
 定期協議後の記者会見においても、厚労大臣は、「これまで厚生労働省として取り組んできた方針がありますので、その中でどのように整合的に、もうかなり年配の方が増えておいでですし、これから先対象が広がる話ではありませんので、可能な範囲で認定が出来るようにしていければいいなと思っています。」と答えられてます。これが、甲A77号証です。
 しかし、「厚生労働省として取り組んできた方針」は、集団訴訟の判決の中で  誤りであることが明白にされた訳ですから、それとの整合性を図る必要はまったくありません。

第4 厚生労働省の弁解

 1 「放射線起因性が認められる」等の文言について


 厚労省は、原爆症認定制度の在り方に関する検討会の中で、積極認定疾患のうち、白内障、心筋梗塞、甲状腺機能低下症、慢性肝炎・肝硬変は、加齢や飲酒・喫煙等の生活習慣、持病など、実際には放射線に起因しない原因により発症する場合が多いため、混同することを避けるために、「放射線起因性が認められる」という文言を用いているのだと言います。これが、甲A78号証の資料です。
 原爆症の認定審査に当たっては、
①実際にその疾病の状態にあるか、
②疾病が放射線以外の他の理由により発症したものであるか、
などについて確認を行っていることから、積極的認定範囲とされる被爆状況でも却下となる案件が生じることになると言うのです。
 しかし、これでは、これらの疾病を積極認定対象疾病とした意味がありません。 

 2 確認作業の具体例

 厚生労働省は、その確認作業として、
白内障では、50歳では37~54%、60歳では66~83%、70歳では84~97%、80歳以上では100%が加齢白内障であり、その他にも、糖尿病や副腎皮質ステロイド等の薬剤が原因となるから、これらの確認が必要なのだと言います。被爆時0歳であった被爆者でも、現在、66歳でほとんどの被爆者は70歳を超えています。もう、これだけで白内障は認定されないという結果になることは目に見えています。
心筋梗塞では、高脂血症、高血圧、糖尿病、喫煙、年齢、肥満、家族歴(遺伝)が肝動脈の粥状動脈硬化の危険因子とされているとし、その確認作業が必要だとしています。被爆者は皆、高齢ですからまず年齢で引っかかります。喫煙歴があればそれだけで認定されにくくなります。加齢に伴い、高脂血症、高血圧も生じやすくなります。

第5 重大な岐路に立つ原爆症認定

 1 「原爆症認定制度の在り方に関する検討会」において、ある委員は、「科学をよりどころとする専門家集団としては、その基本になる審査の方針の考え方が、国際的に認められた科学的知見に沿わないということもありまして、放射線起因性を科学的に証明されているとは言えない疾病まで認定対象となっている現状に違和感を覚えている」と公言しています。
定期協議において、厚労省の健康局長も、「現在の新しい審査の方針は、広く救おうということで、放射線レベルについて放影研や日米の合同委員会からするとかなり緩くしている。」と、まるで科学的でないかのように答えています。

 2 以上の通り、原爆症認定の実態は、集団訴訟の到達点、司法判断の到達点にもかかわらず、新たにこの基準すら無視し、大量の申請却下を生み出し、「8・6合意」の趣旨に逆行して、再び裁判で解決をせざるを得ないような状況に至っています。
 現在、ここ第7民事部で係属している原告9名を含め、大阪地方裁判所では29名の原告の事件が係属し、集団訴訟の原告数を上回っています。
 このような新規の提訴は、大阪地方裁判所だけでなく、広島、長崎、熊本、名古屋と広がり、全国に広がろうとしています。

 3 現状の原爆症認定行政が、集団訴訟と認定基準見直しの流れに逆行するものであることは、当の厚労大臣も認めていると思います。定期協議において小宮山厚労大臣は、「皆さんがイライラしていることは重々承知しています。」と言わざるを得ませんでした。
 裁判所においては、原爆症認定をめぐる本件訴訟が集団訴訟で築いた到達点を崩す結果になるのか厳しく問われているということを十分理解していただいて審理されることを切望するものです。
以上

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2011.11.29 Tue l ニュース(原爆症裁判) l コメント (0) トラックバック (0) l top